妄想戦記シリーズ第2弾です。
この話のテーマは私のオリジナルキャラクター“イオス=エルザード”彼がプロジェクトBTを生き残り、アルサレア戦役を迎えていたら歴史はどうなっていたかです。
彼が何を見て、何を感じ、そして何をなすか………
それではどうぞ
【JN-YS01C ヤシャ改】
ヴァリム戦略機動軍大尉グリュウ=アインソードの愛機として有名なヤシャ。
元々がエースパイロット用の機体ではあるが、そのスペックをグリュウ大尉は終戦近くには遙かに凌駕していた。
その為ヴァリム内では彼に合わせてのヤシャの改修が進められており、その成果がヤシャ改であった。
ヤシャと比べて出力は1.2倍、更に攻撃能力の上昇、装甲の強化、機動力の増加などがされている。
しかし、その完成の直前にジャポネクル社から“キシン”と“オニ”の発表があり、ヤシャ改はグリュウ大尉の元に届けられる事はなかった。
聖歴23年
ヴァリムとアルサレアの戦いはついに終幕を迎えようとしていた。
アルサレア新首相フェンナ=クラウゼンによる議会ジャックによるヴァリムのグレン将軍暗殺が全世界に報じられ、アルサレアはその信用を取り戻す。
事を焦ったヴァリムはついに全勢力を上げてアルサレアに進軍、最終決戦へと突入する。
その戦いでヴァリムはグリュウ=アインソード大尉を失い、大型戦艦オーガル・ディラムも失う。
後に『アルサレア戦役』と呼ばれた戦いはアルサレアが勝利を収めた。
その戦いの中、1人の男が自らの人生を掛け挑んでいた。
イオス=エルザード…
たった1人の肉親である妹――カノンを護るためにだけに戦う、それを信念としていた。
その信念による強さは周りに認められ、着実に出世を果たしていく。
だが、少しずつ彼はヴァリムのやり方に疑問を抱いていくのであった……
アルサレアの議会ジャックの連絡を受け、イオスは自らの小隊を率いて議会場へ急ぐ。
「急げッ!! これ以上アルサレアの好きにさせるわけにはいかないぞッ!!」
「――判ってますって」
「――そ〜そ〜。俺達だってアルサレアの連中に好きにさせるつもりはないですよ」
イオスの焦りとは裏腹部下達は至って冷静であった。
「お前達なぁ」
「――もぉお兄ちゃん。そんなに焦ってたら出来る任務も出来ないよ?」
部下に八つ当たりをしそうになったイオスを彼の妹――カノンが制する。
カノンはエルザード小隊の付きのオペレーターであり、最近短絡的な思考になりつつあるイオスのブレーキ役でもあった。
「カ、カノン…だがな――」
「――隊長さんは何があってもどっしり構えなさい、でしょ?」
「うっ……」
「――これで隊長の10連敗か?」
「――流石うちの隊最強のカノン嬢ちゃんだ」
部下達は口々に笑うと通信を切りブースターを噴かせて加速する。
「アイツ等は……」
「――でも、目は覚めたでしょ?」
「………あぁ、十分な。すまなかったカノン。お兄ちゃんが間違ってたよ」
イオスは通信機に映るカノンに向けて優しげに微笑む。
その笑顔にカノンも安心する。
「――それじゃあお兄ちゃん急いでね。議会場まではすぐだよ」
「あぁ、判っている」
イオスはブースターの出力を上げ議会場へと急ぐ。
『有史以来、アルサレアは、各国に優秀な傭兵達を派遣してきました。しかし、戦場と言う死と隣り合わせの環境は、図らずも少数民族国家である我が国の人口をさらに減少させてしまうという皮肉の結果をもたらすものでした。だからこそ、我が国では――』
エルザード小隊が議会場へと到着した時にはすでにアルサレアにより議会はジャックされていた。
「遅かったか……友軍はどうしたんだ?」
「――とっくにやられちまったんじゃないですか?」
「――いや、市街戦を繰り広げてるみたいだぜ」
街の中では各地で煙が立ち上っている。
「………まずは外から行きますよ。中を鎮圧するには少々骨が折れそうですから…」
イオスは極めて冷静に現状を分析し、今成すべき事をすぐに判断する。
「――へいへい」
「――まっその方が良さそうだ」
「――ではエルザード小隊はその場から3時の方向に進んで下さい。そこからなら進軍が容易に出来ます」
カノンも冷静に議会場の周辺の情報をサーチし、イオスに情報を送る。
『――これらの国に決して屈してはなりません。戦争による悲しい呪縛を断ち切ろうと奮闘している諸国の方々に対し、私達は幾らでも助力する準備があります。今こそ、全ての国々が、この危機を取り去り、新たな信頼関係を築く時なのです。その希望の灯火が、悪意ある人々の凶行の刃に倒れる事があってはなりません』
イオス達がアルサレアと戦闘を繰り広げる最中もフェンナ=クラウゼンによる演説は続く。
「彼女が新たなアルサレアの首相か……まだ若いが立派な者のようだな……」
イオスはそれを聞きながら立ち塞がるJファーを刀で一刀両断にする。
『――今、この時代に生きる私達は、戦争という過酷な環境の中、確かに存在する絆を信じ、父や母の思い、そして、愛する人達を守る事を誇りとしています。私は、この声を、愛する人を守り戦う全ての人に送りたいと思います』
「……………それは真実なのか? 信じるに値する…」
イオスの胸にフェンナの言葉が響く。
『アルサレアの民も、世界の人々も、共に手を携え、時代を切り開く新しい力となり、戦争や貧困と言った暗黒の時代を終結させる為、共に戦いましょう。』
「………自らの道を信じてみるか……」
「――お兄ちゃん? どうしたの?」
先程から何かを呟き続ける兄を心配してカノンは声を掛ける。
「いや…何でもないよ。それよりアルサレアが退却を始めている」
彼が言う通りアルサレアの戦力は徐々に後退を始めており、現に抵抗勢力は減っている。
「――あっホントだ。どうするの?」
「…………追撃はしません。このまま退却します」
「――おいおい、何でだよ?」
「――納得いかねぇぞ?」
二人揃って文句を言い出す部下に対して険しい顔をイオスは見せる。
「いいですか? アルサレアが退却を始めたとなれば理由は一つ。目的は既に達せられてという事です。ならばこんな所に長居は無用、という訳です」
「――成る程ねぇ〜だったら早く退却しないと。」
「だったら早く輸送機の手配をしてくれないか?」
イオスが注意するとてへへと笑いながらカノンは輸送機の手配を始める。
「まったく……普段から輸送機の手配はあらかじめやって置くように言っているのに…」
「――まぁまぁ隊長、そう言いなさんなって」
「――そうだぜ。嬢ちゃん、オペレーターの勉強なんかろくにやってねぇのにこれだけの事やってくれてんだからさ」
カノンはオペレーターとしての訓練をきちんと受けているわけではない。
イオスが軍に入隊した時にほぼ無理矢理に入れられたのだ。
「判ってますよ。あの女さえ居なければ…!」
「――隊長、そんな事は口にださねぇ方が良いぜ…」
カノンがオペレーターとなった理由、それはフォルセア=エヴァの陰湿な企みであった。
家族を人質に取り、無理矢理に戦わせる。
もし軍を抜け出そうとするならば自分の代わりに家族が戦う事になる。
それだけはさせない為にイオスは戦うのであった。
「――お兄ちゃん、輸送機の手配は終わったよ。あと20分位で着くって」
「判った」
イオスは通信機越しに見るカノンの笑顔に誓った。
「必ずカノンだけは護ってみせる……」
〜ヴァリム前線駐屯基地〜
「では、PFの整備は頼む」
「はっ!」
駐屯基地に帰還したエルザード小隊は整備班にPFを預け、各員しばしの休息を楽しんでいた。
「ふぅ〜〜カノンも遊びに行ったし……ん? あれは…」
通り掛かったハンガーでイオスは見慣れたPFを見つける。
「アレは確か………グリュウ大尉ッ!!」
そのPF――ヤシャの足下で整備兵と話し込むグリュウ=アインソードを見付け駆け寄っていく。
「ん? ――君は確か…」
「お久しぶりです。訓練所で貴方にしごかれたイオス=エルザードです」
彼らは訓練所では教官と訓練生という間柄であった。
その縁からか駐屯地で一緒になった時は挨拶に向かう事が習慣となっていた。
「そうだったな。偶然だな、任務が終わったのか?」
「えぇ、先程までアルサレアの議会ジャックの鎮圧に行っていました」
「そうか…それでどうなった?」
「残念ながらまんまとやられました。確か…フェンナ=クラウゼンでしたか? 彼女の演説は……多分世界に伝わったでしょう」
それを聞くとグリュウは何か考え込むようにする。
「大尉?」
「………いや、すまん。だが、それで良いのかもしれん。やはり私はギルゲフのやり方は気にくわんのでな」
「………そうですね、私もフェンナ=クラウゼンの演説を聞いて少し迷いました」
そう言いながら二人は歩き出す。
「私は思うのだ、これからの時代はギルゲフのやり方では世界は滅びるだけだろう」
「では、フェンナ=クラウゼンいや……アルサレアが正しいと?」
「そうはいわんが……信じるだけの力を秘めている」
イオスはグリュウと話していて驚かされるばかりであった。
いくら穏健派だからといって彼ほどの人間が信じるとは思ってもいなかった。
「そうですか………」
「だが私はヴァリムの軍人として戦い続ける」
「……何故ですか? 貴方は今まで正しいと思ったから戦い続けてきたのでは? ならば――」
「ならば今まで私を信じて共に戦い、そして私に想いを託して倒れていった者はどうなる? ………だから私は戦い続ける、負ける戦であろうとな」
真剣に語るグリュウの言葉を聞き、イオスは申し訳なく思った。
「グリュウ大尉………すみませんでした、ご無礼を…」
「いや、構わない。………イオス、お前は見失うな。自分の進むべき道を」
「大尉…それは――」
「何があろうとお前が正しいと思う道を進むんだ。よいな?」
先程まで険しい顔をしていたグリュウであったが今は父親のような慈愛に満ちた顔でイオスを見ていた。
それに力強く頷くイオスであった。
「そういえば話に聞いたのだが、私の専用機のテストパイロットをしているようだな?」
イオスとグリュウは場所を変え、ラウンジで話をしていた。
「えっ? あ、はい。ヤシャの改良型ですね」
「それでどうなのだ? 仕上がりは」
「かなり良い線まで仕上がってますよ。すぐにでも引き渡せるくらいです」
自信たっぷりに笑うとイオスは立ち上がる。
「行くのか?」
「えぇ、仲間も待っていますからね」
「うむ。………ではまた会おう、戦場でな」
「はっ!」
お互いに敬礼し、言葉を交わさず二人共その場を立ち去る。
それから一月後、イオスとヤシャ開発陣はグリュウ大尉専用機・ヤシャ改の最終調整へと入っていた。
「バランサーチェック………オールグリーン。通常から戦闘用にシステムを移行………これも問題なし…」
演習場を巡回しつつターゲットを狙ってサブマシンガンの引き金を引いたり、刀で斬りかかったりして調整を繰り返す。
「――どうかね? 私達が徹夜で仕上げたヤシャは?」
「最高ですよ。とても同じ機体とは思えない。これなら大尉もご満足なさる筈です」
通信を繋げた開発主任にイオスは満足げに頷いて答える。
「では今から戻ります」
「――うむ。傷つけんでくれよ」
苦笑しつつ通信を切るとイオスは研究所へと帰還する。
「ふぅ……」
イオスがヤシャ改から降りると同時に整備班が整備に掛かる。
「…………相変わらず早い仕事だ」
「相変わらずは君の方だよ」
「これはローゼン主任。良い仕上がりですよ」
杖を突きながら近づいてくる初老の老人――というにもまだ若干早いと思われるが――
彼こそがヤシャの開発主任ローゼン=アッシュ博士であった。
ローゼン=アッシュ
ジャポネクル社創設の代から第一線で活躍する大ベテランの開発者。
すべてのPFを我が子のように愛し、グリュウを始めとするエースパイロット達からその腕に絶大な支持を得ている。
「それはそうだ。私達が手塩を掛けて作ったのだからな」
「それもそうですね。…………やっと完成ですか」
「うむ。後はグリュウ君の今までも実戦データを組み込めば――」
「主任ッ!! 大変ですッ!!!」
ローゼンの部下の1人が慌てた様子で走ってくる。
「どうしたのだ、そんなに慌てて?」
「そ、それが今テレビでッ!!」
ローゼンとイオスは顔を見合わせ不思議そうにする。
ローゼンとイオスが休憩室に入ると部下の慌てた理由が分かった。
『我がジャポネクル社が自信を持って送り出す新たなPF。これさえあればヴァリムに敗北などありません!!』
画面に映し出されているのは2つのPFらしい幕の掛かった物体であった。
「こいつは…」
「第1研の連中じゃな。まさか先を越されるとは……」
ローゼンは真剣に画面の見つめる。
『さぁ!ご覧に入れましょう、これが我が社の最新機ですッ!!』
演説をしていた男の後ろに鎮座していたPFの幕が外される。
それこそが要塞攻略戦用PFキシンとそのグリュウ専用機オニであった。
「むぅ…なかなか良いではないか」
「はい、発表されているスペックは我々のヤシャよりも上回っています。それにあの黒い方は………グリュウ大尉専用機だそうです」
部下は俯きながらローゼンに報告する。
それを何とも言えない思いでローゼンは受け取る。
「そうか……我々の研究は無駄になった訳じゃな」
「無駄ではないですよ」
イオスは真剣な表情でローゼンに言う。
「アレは私が使います。要塞攻略戦用のPFが登場すると言う事は近くアルサレア要塞に向けての総攻撃があるはずです。その時に私が乗ります」
「そうか………無駄にするぐらいならそれの方が良かろう」
「無駄だなんて失礼な。これでも私はグリュウ大尉の右腕とも呼ばれているんですよ?」
「………良いだろう。その作戦までには君の元に最高のPFを届けよう。私のプライドに掛けてな」
杖をイオスの喉元に向け、宣言をする。
「お待ちしていますよ。では私はこれで」
満足げに笑った後イオスは休憩室を去る。
「……良しッ!! 今からアレはイオス君用にカスタマイズするぞッ!!」
「おぉ!!」
ローゼンを始め全員が一丸となって作業に取りかかっていった。
それから約三ヶ月が経過しヴァリムもアルサレアも慌ただしい日々を過ごしていた。
ついに両軍が正面からぶつかろうとしていたのであった。
「………………」
イオスは自室で精神集中の為の瞑想をしていた。
次第に周囲の雑音が消えていき、次に周りの気配、そして最後には自らの存在すら消えてしまう。
自らを自然の流れと一体化させ自分がどれ程小さな存在であるかを感じ、全ての雑念を捨てていく。
そんな彼の部屋に向かってくる影があった。
来訪者がへのドアを開けると同時にイオスの意識は戻る。
「…………誰だ?」
「私だよって…くっさぁ〜〜い! もう、何してたのよ〜」
そう言いながら部屋を尋ねてきたカノンは部屋の窓を開けて回る。
「おいおい、勝手に入ったのはお前じゃないか?」
「だとしてもお兄ちゃんが悪いッ! こんな閉め切った部屋でトレーニングなんかしないでよ〜」
妹の訴えに呆れながらも肌寒く感じたイオスはタオルを取ってきて身体を拭き出す。
「キャッ!! 脱ぐなら脱ぐって言ってよー!!」
カノンはイオスが体を拭いているのを見ると慌ててドアの影に入る。
「………何今更はずかしがってんだよ」
「そんなんじゃないけど……/// 乙女心って奴よ」
「訳が分からないな…………うりゃ! 捕まえた」
イオスはこっそりと近づきすかさずカノンを捕らえる。
「やぁ〜ん。汗臭いってばお兄ちゃん!!」
それから5分程じゃれ合い、カノンの強烈なフックが炸裂した事で兄妹のスキンシップは終わった。
「ててっ……それで何の用なんだ?」
イオスは妹が放ったフックによって危うく三途の川を渡るところであったが何とか戻ってきて、フックを貰った顎をさすっていた。
まだ少しご機嫌ナナメなカノンであったが次第に機嫌を直していく。
「まぁいつもの事だもんね……あのね、ついに始まるみたいだよ」
「……………そうか、ついにか。案外早かったな」
ついに火蓋は放たれた。
ヴァリムとアルサレア、その戦いに終止符が打たれようとしていた――後世で『アルサレア戦役』と呼ばれる事となる戦いである。
「あのね、それでローゼンさんから連絡が入ってるよ」
「ついに完成したのか…それで受け取りに来いと?」
「うん」
頷くカノンを見て仕方なくイオスは立ち上がる。
「行こうか?」
「うん♪」
カノンは歩き出したイオスの腕に掴まり2人揃って歩き出す。
格納庫に到着したイオスとカノンは真っ直ぐにローゼンの元へ向かう。
「ローゼン主任!」
「ん? おぉイオス君か。長く待たせたな、やっと完成したぞ」
ローゼンはやってきたイオスとカノンを何処かへと案内する。
「見てくれ、これが完成したヤシャだ」
格納庫の一角、未だ慌ただしい雰囲気のある場所であるが其処に一機PFが立っていた。
イオスのパーソナルカラーである青で全身を染め上げたヤシャであった。
「これが……」
「そうだ。JN-YS01-Cヤシャ改だ。基本性能の全てがヤシャの1.2〜1.5倍、装甲の強化、機動性の確保と向上。現行の最新型のPFに劣る面など無いわ」
「あれから其処まで詰め込んだのですか? …………感謝しますよ」
「私達技術屋は自分達が手塩に掛けたPFの性能を生かしてくれる乗り手には良い物に乗って貰いたいと思うだけだ」
「それでも感謝しますよ。これなら命を懸けて戦えます」
ヤシャ改を見上げながらイオスは微笑する。
「期待しておるよ、イオス君」
満足げなイオスの隣でカノンは不安そうに見つめていた。
その帰り道、イオスは不意に立ち止まったカノンを振り返る。
「カノン? どうしたんだ?」
「……………」
イオスは声を掛けるがカノンは黙ったまま何も言わない。
「カノン、一体どうしたんだ? 何か在ったのか?」
「お兄ちゃん、ちゃんと帰ってきてくれるよね?」
「……何を言うんだ。お兄ちゃん、必ず帰ってきてるじゃないか?」
カノンの想いを感じ取ったのか、イオスは安心させるためにカノンをぎゅっと抱き締める。
「お兄ちゃん……でも、今度の戦いは今までとは違うでしょ? 絶対なんて言えないよ……」
「そうかも知れない……だけど、お兄ちゃんは約束するよ。必ず無事に帰るって。だから…安心してくれ」
「お兄ちゃん…………絶対、絶対だよッ!!」
「あぁ、約束する……」
そのままずっとカノンが泣きやむまでイオスはカノンを抱き締めていた。
それから2週間も経たぬうち、ヴァリム軍は最後の戦いを仕掛けた。
アルサレア最強の砦、アルサレア要塞の陥落。
一部では無謀と呼ばれた作戦もギルゲフの一声で全て黙らせたようだった。
大規模な演説も行われ、兵士達の志気も十分に上がっていた。
その中にイオスの姿もあった。
だが彼は決して熱くはなっていなかった。
「バランサー、冷却剤、ブースト圧全て良好、と。『全ての兵士は憎きアルサレアを滅ぼすために戦え』か……くだらない内容だ」
そう呟きながら淡々と出撃準備を進めていく。
「所詮は一部の資本家に踊らされた戦いだ……最後ぐらいは派手にやるのも悪くない」
そう思った矢先、外がにわかに騒がしくなる。
「何だ? カノン、一体どうなっているんだ?」
「――えっとね。グリュウ大尉がキサラギ両中尉を連れて出撃するみたい」
「えっ!? 予定より随分早いぞ!」
慌ててコクピットを開き身を乗り出したイオスの目の前を漆黒に染まったヤシャと蒼朱のシンザンが出撃するところであった。
「………………」
静かに敬礼しイオスはそれを見送った。
ヤシャが一瞬だけ此方を見たような気がしたがすぐにその姿を消した。
「………そうだよ。何を慌ててるんだ、私は…」
何かを振り払うように頭を振るとすぐにコクピットの中に戻る。
「カノン、私もすぐに出る。用意してくれ」
「――えっ!? ちょっと待ってよ。お兄ちゃんはまだ――」
「いいから!」
殆どきつい言葉を使わないイオス。
そんな彼が真剣な表情で言う事に困惑しつつもカノンは出撃への準備を進める。
「――…………準備オッケーだよ、お兄ちゃん」
「判った。それじゃあ行って来るよ。」
「――うん………絶対、絶対帰ってきて! ……約束、だよ?」
「あぁ……イオス=エルザード。出るぞッ!!!」
カタパルトから発射され急速に加速していく機体の中で、イオスは誓いを切った。
イオスが急いだ理由、それは闘う理由を思い出したこと。
それと……グリュウ達に合流するためであった。
「グリュウ大尉!」
イオスは追いついたグリュウ達と併走しながら通信を繋げる。
「――イオスか。どうした? お前の持ち場は此方ではないだろう」
「最後に、大尉と話がしておきたかったのです」
「――最後? 何を弱気になっている。お前には護らなくてはならない者が居るではないか。そんな事では――」
「私はこの戦いの結末に関係なく、アルサレアへ投降します」
「――なにッ!?」
あまりに急な話にグリュウは絶句した。
「始めからそうすべきだったのです。アルサレアは民の亡命を受け入れています。兵士にならなければすぐにでも行けたのに私は何処かでそのその答えを捨てていました。」
「――もう戦えぬと言うのだな?」
「…………はい…申し訳在りません」
イオスはグリュウに何と言われようとその考えを変えるつもりはなかった。
グリュウも何も言わずにイオスを見ている。
すると――
「――おい、お前。何シラける様な事言ってんだよ」
「――マイ、よしなさい」
「――姉貴は黙っててくれ。お前なぁこっちは今から最終決戦に行こうってんだ。こっちのテンション下げるような事言いに来るんじゃねぇよ」
「キサラギ中尉………申し訳ない…」
「――気にしなくて良いわ、エルザード少尉。でも……そう言う考えも在るわ」
「いえ、こちらも軽率でした」
申し訳なさそうに俯くイオスを見てマイは苛立つ。
「――あたいはそうやってうじうじ悩んだりする奴は嫌いなんだ。こっちまで気が滅入ってくる」
「――よし、そこまでだ」
「――グリュウ…」
今まで沈黙を保っていたグリュウが口を開く。
さすがにマイもこれ以上話す事をやめた。
「――イオス、それがお前の選んだ道なのだな?」
「はい。何の迷いもありません」
「――……ならばそれも良かろう」
「――隊長?」
「――……お前達にはわからんかも知れぬがこういった生き方もある。だがイオス。一つだけ私から言いたい」
「何でしょうか大尉」
「――妹は連れて行け。これ以上身内に不幸な者は出したくはない」
私もこの戦いで生き残るかは判らないと最後に付け加えてグリュウは笑った。
それにイオスは力強く頷く。
「――ヴァリムはこの戦いに負ける、その時なら逃げ出す隙もあるだろう」
「グリュウ大尉……」
「――死ぬなイオス。お前は生き抜くんだ」
「はい…グリュウ大尉……」
「――………ユイ、マイ! 遅れた分を取り戻す。急ぐぞ!!」
グリュウはユイとマイを連れ、戦場へと向かった。
イオスはそれを見送り、この戦いを生き抜く決意をする。
戦いは激化し、所々で煙が上がっている。
そんな中イオスは後方に下がる兵士達の援護をしていた。
「くぅッ! …………今のうちに後退をッ!!」
「――すまんッ!! 生き残ってくれよッ!!」
後方に下がるヌエを見送りながら、イオスは前線へ弾幕を張る。
「アルサレアの勢いが増している……やはり事を急ぎすぎたんだ…ん?」
後退してくる友軍の中に知った者を見付けて近くに寄っていく。
「ダン、どうしたんですか? 君は最前線にいたはずでは?」
「――ん? イオスか。お前こそこんな所で何やってんだよ?」
イオスが声を掛けた相手、それはダン=ロンシュタットであった。
ダン=ロンシュタット――ヴァリム軍内でも最強と呼ばれたグリュウ=アインソード配下の小隊の中でもトップクラスの腕前を持つPF乗り。
同期であるイオスとも良き友人、良きライバルであった。
「前線の兵の為に退路を断たれるわけにはいきませんからね。それよりも何故後退を? 何があったんです?」
「――……………」
「ダン?」
「――…………死んだ……」
「えっ?」
それはかすかに呟かれ、聞き取れなかった。
だがそれを聞いてしまうわけにはいかないと言う思いがあった。
「――グリュウが………死んだ………」
「そんな………まさか………」
「――冗談でも言えるかよ…んな事…」
ダンの話を聞けばグリュウはアルサレアのグレンリーダーとの一騎打ちで敗北したようだった。
「そう……ですか…大尉が…」
「――まぁアイツも人間だったって事だな。けど、このまま此処に残るのはヤバいぞ。アルサレアの奴ら、その事で一気に勢いを付けやがった。今はかろうじて保ってるけど……崩れるのは時間の問題だぜ」
確かに敵軍の将を討つ事は兵の志気をあげるのに大いに役立つ。
ヴァリム軍にとってそれはかなりの痛手であった。
「…………この戦い、我々の負けでしょう」
「――畜生! 俺は納得がいかねぇぞ、こんな終わりかたッ!!!」
「ダン………あなたを見込んで頼みたいことがあります」
「――何だよ」
この時イオスは覚悟を決めた。
何が在ろうと自分を見失わないようにと。
「このまま私の代わりに退路を確保しながら後退して下さい。少しでも無駄な犠牲を抑えるために」
「――俺だって無駄に死ぬ奴は増やしたくないしな。けど、お前は何するんだよ?」
「………楽しかったですよ、あなたと闘ったり馬鹿やった事は。また平和な時に会いましょう」
それだけを言い残してイオスは去っていく。
「――何だったんだ? ……ッ!! まさか、アイツ…」
だがダンはそれを黙って見送っていた。
「――くそッ!! おいお前等ッ!! 死にたくなかったらさっさと後退しろッ!!」
ダンは周りに居た友軍を引き連れて本陣へと後退していく。
その頃、カノンは後方の司令部で必死に現段階での戦力の確認を急いでいた。
「カノンッ! さっき渡したデータはッ!!」
「はいッ! 出来てますッ!!」
「それじゃあ急いでこっちに回してッ!」
「はいッ! ――――――ッ!?」
突如響くのは轟音。
その音に司令部は慌てふためく。
「な、なにッ!?」
「――カノンッ!!!」
「お、お兄ちゃん!?」
轟音に続いたのはカノンを呼ぶイオスの声。
慌ててカノンは外へ飛び出す。
「な、なんでッ!!」
外へ飛び込んだカノンの目に映ったのは友軍相手に剣を振るう兄が乗るPFであった。
「何で……お兄ちゃんッ! 何してるのよッ!!」
その叫びに気付いたのか蒼き夜叉は振り向く。
「――カノン、さぁお兄ちゃんの所に来るんだ」
「その前に説明してッ! 何で…何でこんな事するのよッ!!」
「――………これが私が選んだ生きる為の道なんだッ!」
「だからって……だからって何で味方を撃つのッ!」
既に護衛のPFはイオスの手に掛かって破壊されている。
辺りにも破壊された施設の残骸が転がっている。
「――邪魔をするからだ。でも殺してないッ!」
「そんなの理由にも――ッ!!」
カノンの背後で爆音が響いた。
振り返ればさっきまであった輸送車両が煙を上げている。
「――カノンッ!! 来るんだッ!!!」
普段とあまりに違う兄の姿に怯えるが、これ以上迷惑を掛けないためにカノンは夜叉に乗り込む。
それを確認するとイオスはそのまま前線の方へと機体を走らせる。
「……………」
「……………」
2人の間に言葉はない。
カノンは何も尋ねないし、イオス語ろうとはしない。
「………カノン。お前が怒るのも判る。だけど、私はあれ以上ヴァリムにいるのは危険だと思う」
「……………」
「昔はつまらない意地でヴァリムに残った。だけど、それは間違いだった。私は決めたんだ、何が起きてもお前だけは守るって…」
「……………」
「恨んでくれても、嫌ってくれても構わない。ただお前を守りたいんだ」
それからまた言葉はなかった。
「そろそろだと思うんだが……」
イオスが向かったのはアルサレアとの国境だった。
その付近で救難信号を出せば不審に思ったアルサレアが向かってくると考えての行動だった。
「よし……ッ!?」
突如コクピット内を騒がしくさせたのは危険警告のアラームだった。
「な、なんだッ!?」
イオスは機体を停止させ、周辺を警戒する。
「――敵前逃亡ならびに裏切りは極刑ものよ?」
「くッ!神佐ッ!!」
空から舞い降りたのは深紅の染められたオードリー――フォルセア=エヴァ神佐だった。
「………まさか、神佐自ら御足労頂けるとは……申し訳ないですね」
「――ふふっ…その建前だらけの仮面は取ったらどうかしら?」
フォルセアの言葉でイオスの表情が変わる。
「………何のようだ? 出来ればさっさと消えて欲しいんだが?」
操縦桿を握る手に自然と力が入る。
ほんの一瞬でも気を緩めれば自分どころかカノンの命もないだろう。
「――……カノンを渡しなさい。その子は私が推薦したのよ? そんな事されたら私の名前に傷が付くわ。今ならアナタの処罰だけで済むもの」
「断る」
「――何ですって?」
「耳が遠くなったか? 神佐のクソババァ殿。元を辿れば貴様のお陰でカノンは戦線にいた。これ以上妹を危険に晒すわけにはいかないんでな」
「お兄ちゃん……」
「――口の聞き方を知らない坊やが……」
啖呵をきった瞬間にイオスを束縛していた空気がなくなる。
心は静かに落ち着いて、真っ直ぐにフォルセアを睨み付ける。
「――……残念だけど――」
一瞬の出来事。
翼を広げたオードリーが大地を駆ける。
その動作に咄嗟の判断よりも今までの経験で積んだ直感が反応して刀を滑らせる。
ガキッ!!!!
「――………さすがね。あのグリュウの右腕と呼ばれるだけはあるわ」
「ぐぅ……ッ!!」
オードリーは夜叉の首を飛ばそうとカタールに力を込める。
夜叉はそれを防ぎながら後退していく。
「はぁッ!!」
カタールを受け流すと同時に刀を横薙ぎに払う。
だがオードリーはその機動性を十分に引き出して間合いから一気に離れる。
「――ふふっ…少しは楽しめそうね」
フォルセアは口元をゆがめるとレーザーピストルの狙いを定め夜叉へ向けて引き金を引く。
「邪魔をするなぁッ!!!」
イオスの叫びと共に放たれたLMGはレーザーを相殺しながらオードリー目掛け一直線に進む。
確認できただけでも2発の着弾。
僅かではあるが反撃の糸口には十分だった。
「一気に決めるっ!!!」
フルブーストで駆け出すと砂塵の向こうのオードリーへ向けて刀を振り下ろす。
「――甘いわ…」
オードリーは既に背後に移動していた。
それに気付いたイオスが機体を反転させるよりも早くオードリーのカタールが振り下ろされていた。
「ぐっ!!!」
致命傷には至らないがその代わりに左腕を奪われた。
「――もっと上手く逃げないと死んじゃうわよ?」
「クソババァが……」
二機の戦いは激化していく。
イオスとフォルセアの戦いは壮絶を極めた。
お互いに一進一退の戦い。
だが徐々にイオスは押されていた。
かわしきれた攻撃はいつしか夜叉を捕らえており、機体の装甲が徐々に破がされていく。
「くそッ!!」
カタールの斬撃が真横から迫る。
それを刀の腹で受け止め、反撃に移すがそれもすぐに防御の一手へと変わる。
「お兄ちゃんッ!!!」
「!?」
カノンの叫びで反応したレーザーがコクピットをかすめる。
「お兄ちゃん、大丈夫なの?」
「……正直厳しい…もしもの時は――」
「許さないからッ!!!」
急にカノンが大声を上げ、イオスの言葉を遮る。
その突然の事にイオスは驚く。
「か、カノン?」
「お兄ちゃんが勝手に巻き込んだんだから最後まで…最後まで責任取って守り抜きなさいよッ!!!」
「………少し揺れるけど我慢してくれ」
「……………うん!!!」
「思ったよりもつまらないわね…」
オードリーのコクピットでフォルセアは呟く。
はっきりと言えば今更あの兄妹がどうなろうと自分には関係がない。
それでも兄妹に執着したのは裏切り者の始末が酷く楽しくて仕方ないからだ。
今までも多くの脱走兵の命乞いを見て、それを葬ってきた。
それは優越感を味わえた、自分にとってこの上ない遊びだ。
だがこの兄妹からは優越感など感じず嫌悪感しか伝わってこない。
「もう良いわ。さっさと――ッ!?」
振り抜かれた刀の一撃をカタールで上にそらす。
一瞬の攻撃の途切れ、その瞬間に夜叉の動きが変わる。
その変わり様はさっきまでとは別人の操縦と行っても過言ではなかった。
「………そう、やっと本気って訳? なめた真似をしてくれるわね…」
フォルセアは笑っていた。
自分でも気付かずにイオスとの戦いに楽しさを感じ取ったようだ。
「良いわ……その首、貰ってあげる」
本気でイオスへと襲いかかる。
「くッ…あっちも本気になったという事か……」
カノンの事を考えた消極的な戦い方をやめた途端にオードリーの動きが今までの何倍もの速度で襲いかかる。
相手は完全に手を抜いて戦っていたと言うわけだが、そんな事はどうでも良かった。
結局こちらがピンチだという事には変わりないのだから。
「チャンスは一瞬……それまで保つのか…?」
ちらりと視線を落とせばコクピットに出来たほんの僅かなスペースで必死にその体を護ろうとしているカノンの姿。
ただその姿を見るだけで負ける気は失せる。
「私が負ければカノンの命もない……負けるわけには、いかないんだッ!!」
刀を振りかぶりオードリーに猛攻を掛ける。
一撃一撃に魂を込めて振るう。
その姿はまさに鬼神と呼ぶに相応しい姿であった。
だが、その猛攻もすぐに終わった。
やはり本気になったフォルセアとの力の差は歴然であった。
「くっ………くそッ!!!」
反撃に刀を振るが当たらない。
逆にレーザーピストルで頭部を撃ち抜かれてしまう。
「くッ!しまったッ!!」
左手を失った時点でもギリギリの危うさを保っていた機体のバランスが一気に悪化する。
そのままヤシャ改はその場で片膝をつく。
「――もう終わり? もう少し楽しめると思ったのに……」
「…………」
なんとかサブモニターを復旧させると目の前にはカタールとレーザーピストルを変形させたジャマダハルを構えるオードリーの姿。
一気に片を付けないのは最後の瞬間までターゲットに恐怖を与えるためだろう。
「ったく悪趣味だな……だが、その詰めの甘さが命取りだ」
「お兄ちゃん?」
「カノン、こっちにはまだ切り札がある。最後まで私を信じてくれるか?」
「……うん。私、お兄ちゃんを信じる」
「ありがとう」
ぐっと操縦桿を握り締める。
イオスは諦めてはいない、その手にはまだ奥の手が残されている。
今すぐにでも仕掛けたい気持ちを抑えてタイミングを計る。
「………………」
一歩、また一歩オードリーが歩を進める。
いつ攻撃に転じてもおかしくない距離でイオスはその一瞬を見極めようとする。
「………今だッ!!」
動いたのはオードリーがカタールを振り上げた瞬間、イオスは最後の切り札を使った。
ヤシャは崩れ落ちたまま何の反応も示さない。
正直最後までみっともなく足掻いてくれる方が此方としても楽しいのだが…
「結局その程度だったようね………さようなら、イオス=エルザード」
全てを終わらす為にカタールを振り上げる。
すると、ほぼ同時にヤシャがHMを起動させる。
「最後の悪足掻きね。今更HMを使っても――」
――斬ッ!!!!
それは時間にすればほんのコンマ数秒の出来事だったであろう。
だがその瞬間で全ての決着は付いていた。
「なッ!?」
フォルセアはただ驚くしかなかった。
オードリーの全ての動きが止まっている――いや、正確にはオードリーは動く事が出来なかった。
何故なら両腕両足を失って地面に倒れているからだ。
そして倒れていたヤシャは遥か後方に移動している。
何が起こったのか理解する前にフォルセアは脱出ポッドで基地へ向けて飛ばされていた。
「くぅ……私を侮辱した事…必ず後悔させてあげるわ」
遠ざかるヤシャを睨みながら恨みを込めて呟いた。
何が起こったか、それはカノンにも理解できてはいなかった。
「お兄ちゃん、今何が起きたの? 一瞬グッてGがかかったと思ったら神佐のPFは倒れてるし、これだって移動してるし!!」
「この機体にはとっておきの必殺技があったんだよ」
「な、何それ?」
「これにはもう一本腰に刀があっただろう。あれは光牙だったんだ」
「こ、光牙ってあの!?」
光牙――ヘルファイア、真・双破斬と並ぶPFが装備できる最強兵器の一つである。
高い攻撃力を誇りながらもその攻撃速度の遅さ故に使用する場面を選ばざるをえない兵器である。
「でも、今の攻撃って光牙の速度じゃないよ!?」
「そこが必殺技なんだ。このPFのHMは光牙を使うためだけにあるんだ」
それでも疑問を浮かべるカノンのために判りやすく説明する。
「ローゼン主任はHMを特定の状態を引き起こすために調整を行ったんだ。それがさっきの超高速稼働なんだ。あの状態なら機体に負担はかかるけど光牙を超高速で振る事が出来る」
完璧な状態ならその状態を5回位は引き出せると付け足して置く。
「す、凄い……」
「でも、こんなボロボロの状態で使ったから一度だけ、しかもかなり短い時間しか使えなかったんだ」
「………私達、助かったんだよね……?」
「……あぁ、そうだ」
「…………お、お兄ちゃーーーーんッ!!!」
瞳に涙を溜めながらカノンはイオスに抱きつく。
今までの張り詰めていた緊張の糸が切れてえんえんと泣き続ける。
「よしよし……」
そのままずっとカノンが泣き止むまでイオスは優しく抱き続けた。
それから十分程してやっとカノンは落ち着く。
「もう大丈夫か?」
「……う…ん平気……」
「よし…それじゃあ行こう」
「えッ? 行くって何処?」
「外を見てごらん」
イオスはコクピットを開けて外の眺めるよう促す。
そしてカノンが見たものは――
「ッ!?」
そこに立っていたのは2機のアルサレアのPFだった。
「アルサレア軍……」
「ちょうど良い。彼らに事情を話します」
何とか生きていた通信回線を開く。
「こちらはヴァリム機動軍所属のイオス=エルザード少尉です。こちらは亡命を望んでいます」
しばらく時間を置いて返信が返ってくる。
「――………判った。今からそっちに行くから待ってな」
「――ちょっとレイジッ!!」
「――良いんだよッ! それに……隊長だって同じ事するだろ……」
「――………」
「――……すまない、待たせたな。その機体はまだ生きてるのか?」
向こうは仲間内でもめたようだがどうやら此方を拾ってくれるようだ。
「いえ、完璧に死んでます。拾って貰えますか?」
返事はなかったがゆっくりと一機のPFが近づいてくる。
「………どうやら一応受け入れてくれたようだな…さぁ行こう」
イオスはコクピットから出てまだ迷っているカノンに手を差し出す。
「…………うん!」
カノンはその手を取る。
……………………
……………
………
戦争は終結した。
人々の目にはそう写っているし、何処のテレビやラジオも戦局の様子を放送していない。
誰もが安心して日々を送ることの出来る時代。
やっと平和が訪れたのだ。
「…………いい天気だ。洗濯物を干して早いうちに買い物に行かないと」
ドタドタドタ…
「ん? やっと起きたか」
「遅刻する〜〜〜〜!!」
「おはよう、カノン。ほい、トースト」
ちょうどいい具合で焼き上がったトーストをカノンに手渡す。
カノンはそれを器用にも制服に着替えながら食べる。
「なんで……朝……起こしてくれないのよッ!!」
時折口をもぐもぐさせながら話す。
全部食べたのを見計らって水を渡すと、グイッと一気に飲み干した。
「何度も起こした。でも起きなかったのはカノンだろ?」
「うっ………あ〜! もう時間ないや!! いってきますッ!!!」
「いってらっしゃい」
嵐のように学校に出掛けるカノンを見送って自分も朝食を取る。
結局あの後、保護してくれたパイロットに連れられてアルサレア本部に向かった。
私の方は三ヶ月ほど軍の監視下に置かれたが、特に何かされたわけではなくすぐに出された。
今でも時折軍の関係者が話をしに訪れるが、最近では殆どたわいない話でしかない。
カノンも三ヶ月の間にこのオルフェン内の部屋を与えられて近くの学校へ編入をしていた。
最初は戸惑ったようだったが今では仲の良い友人も出来て楽しくやっているようだった。
あの時の選択は間違いではなかった。
今なら確信を持って言える。
「さて……そろそろ行こうかな」
買い物も済ませた夕方時、カノンが帰ってくるまでの少しの間、私は出掛けるようになっていた。
もう二度とPFには乗らない。
だから私は唯一の趣味であるギターを取った。
平和の尊さ、戦いの虚しさ、喜びと悲しみ、怒りをギターの旋律に乗せて歌おうと。
それが自分に出来る、未来の為になると信じて。
〜fin〜
あとがき
妄想戦記第2弾如何でしたでしょうか?
イオス君が求めたのは平穏な日々、幸せな日常だったんです。
ちなみにゲスト出演はレイジとジュンです。
この2人も戦役に参加していたのですが、その時何があったのかは……また別のお話。
次回は『シャドウ』の1人ゼロ=ツヴァイが主人公です。
“シード・ラボ”に置いて試験運用中だった試作型GF『Jプロヴィデンス』が暴走を始める。
事態の早期解決の為に出撃したゼロは単身Jプロヴィデンスへと向かう。
次回Jプロヴィデンス〜銀の悪魔〜にご期待あれ!
機体設定
型番:JN-YS01C
名称:ヤシャ改
全高:10.6m
本体重量:16.0t
基本ジェネレーター出力:1800kw
装甲材質:ジャポネクル合金
ヴァリム軍がエースパイロット用に開発したヤシャの強化機。
元はグリュウ大尉の為に開発された筈だったがオニに先を越され、グリュウ大尉の部下イオス少尉の手に渡った。
ヤシャと比べ全ての数値が1.2〜.5倍となっており、更に攻撃能力の上昇、装甲の強化、機動力の増加などがされている。
更にこの機体の特徴として特異なHMがあげられる。
この機体のHMは腰に下げられた光牙を使用する時にその真価を発揮する。
通常のHMでは考えられない速度で動く超高速稼働、それがこの機体のHMである。
その速度でなら多少の負荷が掛かるものの光牙の欠点である攻撃速度をカバーして攻撃する事が出来る。
武装
ミチザネ:カタナの発展兵器。
自動追尾可能になり使い勝手も向上。
レーザーマシンガン:高速連射可能なレーザー兵器。
消費出力は半端ではないがそれに見合う威力と使い勝手は良い。
光牙:カタナ系兵器では真・双破斬に次ぐ威力を持つ兵器。
致命的欠点として攻撃速度の遅さがある。
キャノン:高威力を誇る射撃兵器。
初速も速く使い勝手は良いが、弾数が少ないのが欠点。
管理人より
クレストさんより妄想戦記第2弾をご投稿頂きました!
フォルセアは何処へ行っても相変わらず……でもそれ故にある意味貴重ですが(苦笑)
しかし光牙……非常に珍しい武器でしたね(笑)
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