「はぁ〜〜……」
その時、私――クリオ・ペトリューシカはもう何度目か判らないため息をついた。
自分の部屋でベッドに寝ころんで、天井を見上げている。
寝返りを打った視線の先、サイドテーブルの上には映画のチケットが2枚。
ずっと前にリーダーと話していて話題に出た映画。
「早く誘わないと無駄になっちゃうな……」
そしてまた私はため息をついて、深い眠りへと落ちていった。
「敵機確認!迎撃を開始します!!……焦るな……焦ったら負けよ、クリオ」
目の前のモニターで確認できるのはヌエ一機。
だが単独でこんな所に居るのはおかしい。
私は目の前のヌエに気を付けながら周囲に神経を集中させる。
「一体何処に……上ッ!!」
本能的に感じ取った気配を信じ、真上に視線を動かす。
案の定そこに一機のヌエが居て、サブマシンガンをでたらめに撃ってくる。
私はそれを冷静に見切ってブースターを踏み込む。
推進力は機体を加速させ、あっという間にヌエの頭を取る。
「遅いわよッ!!」
右手に握っていたアサシンファングを構え、再びフルブーストで突っ込んでいく。
操縦桿越しに伝わる感触で、ヌエを斬り裂いた事を確かめるとそのまま爆発から逃れる。
「まずは一機……ってあれ?」
迂闊だった。
仕掛けてきた方を追うのに専念しすぎて初めの一機を見失っていた。
慌ててレーダーに視線を移すがその瞬間悟った。
ヌエは既に後ろに回っていて、グレネードランチャーの引き金に指を掛けている。
抵抗が無駄だと悟った私はゆっくりと瞳を閉じる。
そして――
『―お疲れさまでした。シュミレーションを終了します―』
ゆっくりと目を開ければ目の前のモニターにはシュミレーションの結果と成績が表示されている。
「あぁ、もぉ、油断した〜」
「大丈夫ですか?」
「あっカグヤ。う〜〜ん……ぼちぼちってとこかな?」
シュミレーターから出たところで、オペレーションを担当してくれたカグヤに会った。
カグヤは私達『レガルド小隊』専属のオペレーターで、任務から帰ってきた時に煎れてくれる彼女の珈琲は凄く美味しい。
隊長やバックスはそれが目当てで作戦が頑張れるって言うくらい。
私とは歳が離れてないからプライベートでも結構仲が良い方だ。
「そうみたいですね。此処最近のデータを見る限りは……」
「うっ、痛い所を……」
カグヤが手元の資料に目を通して言った言葉が私に突き刺さる。
確かに此処最近、訓練に身が入ってない。
でもその理由は痛いくらい判ってる。
「――凄いですね、リーダー君。また記録更新ですよ」
「――でも、俺なんかまだまだだよ」
ちょうど隣のシュミレーターからリーダーが出てきて、出迎えたリーネ主任と話をしている。
凄く親しげに話してて……ちょっと胸が痛くなった。
「……クリオ、挨拶してきた方が良いんじゃないですか?」
「えっ?あ、うん。ごめん、それじゃまた後でね」
手を合わせて謝ってから私はリーダー達の後を追う。
私は走っていくクリオを見送り、力無く手を下げる。
「……あ〜ぁ。私何やってるんだろう……」
私もブレッドさんの事は、好き……なんだと思う。
クリオやリーネ主任みたいにはっきりとした想いじゃないけど……
それでもクリオに元気がないのは何となく嫌だった。
「私は愛より友情なのかな……?さぁ、まだまだ仕事は残ってるんだぞ、頑張らないと」
私は少し苦笑いをしてからぐ〜っと背伸びをして仕事に戻った。
「はぁ……はぁ……何処行ったんだろ?リーダー……」
そんなに遅れてなかったはずなのにリーダーの姿を見失った。
あっちこっち見て回ったけど全然見つからない。
それだけですごく、不安になる……
「……あっ!リー…………」
「――……ですよ。」
「――そうかな?あははっ」
やっとリーダーの姿を見つけたけど声は掛けられなかった。
ラウンジのソファーに腰掛けて話すリーダーとリーネ主任……
凄く自然な2人の姿。
それを見たら声なんか掛けれなかった。
気付いたらそのまま背中を向けて走ってた。
「ん?」
「どうしたんですか、リーダー君?」
「ごめん、リーネ。また後で!」
「はぁはぁ……」
気付いた時にはハンガーまで来てた。
「はぁ〜〜……何やってんだろ、私……」
取りあえず視界に入ったベンチに腰を下ろす。
そのまま上を見上げた。
思い浮かんでくるのはさっきのリーダーとリーネ主任の姿だけだった。
「仲良さそうだったな……それに凄く自然だった……」
それを呟いて自分でも何を言っているのか、情けなくなった。
リーダーの側に居たい、リーネ主任じゃなくて私が隣に居れたら何て考えてる。
昔はこんなんじゃなかったのに……今はリーダーを独占したいって思っている自分が居るのが判る。
「私、こんなに独占欲が強かったのかな?」
そしてその独占欲を悪くないって思ってる自分が居たりもする。
「あぁ〜〜〜〜もお!!こんな所で悩んでたって仕方ない。これから演習でも――」
「クリオ?居るのか?」
その瞬間に頭の中が驚きで真っ白になって、何をすればいいか判らなかった。
だって突然目の前にリーダーが現れたから。
「え、あ、その、ど、どうしたんですか?リーダー?」
「え?いや。クリオ、さっきラウンジに来ただろ?なのに急に走って行くから気になったんだ」
見られてた……でも気付いてくれてたんだ。
そう思うと少し嬉しかった。
「隣良いかな?結構本気で走ったからさ、ちょっと休憩」
「あ、はい!どうぞ」
私はすぐに横にどいてリーダーに座って貰った。
「それにしても、クリオは脚早いんだな。全然追いつかなかった」
結構自信あったのにな〜と呟くリーダーは何処か、可愛かった。
「きゅ、急に走りたくなったんですよ。それで無我夢中だったから……」
自分でも何て間抜けな言い訳だろうと思うけどリーダーはそれをじっと聞いてる。
さっきまでずっとリーダーの事を考えてたから凄く意識しちゃってる。
いつも以上に格好良く思えて、凄く眩しい。
「運動不足って訳じゃないんだけどな。クリオって何かスポーツやってたのか?」
「えっ?はい。訓練所に入るまでは学校で陸上やってたんですよ。これでも地区大会とかで結構活躍してたんですよ♪」
軽くガッツポーズなんか取ってみたりする。
その時、リーダーとこんな話をするのは初めてだった事に気付いた。
「へぇ〜凄いじゃないか」
「走る事以外に得意な事無かったんですよ」
やっぱりこういう話は恥ずかしいからちょっとはにかんでしまう。
「う〜〜ん、それじゃあリーダーは何かしてなかったの?」
「俺?……実は、俺小さい頃から剣道やってたんだ」
「剣道……ですか?」
「そ、剣道さ」
そういってリーダーは竹刀を握る振りをする。
そう言って話すリーダーは何処か普段よりも少年っぽく見えた。
「実家の近くに道場が在ったんだ。それでガキの頃から通って……――」
……………………
………………
…………
それからしばらくリーダーと学生時代の想い出話や子供の頃の話で盛り上がった。
そして、改めて思い出した。
私とリーダー―ブレッドは同い年だって事。
物の考え方や捉え方、私と全然違わない、同い年の男の子。
たまに大人っぽくて、時々凄く子供っぽい。
格好良かったり、可愛かったり。
そして、私はどんどんこの人をスキになっていく。
――コイしていく――
「――……でしょ?」
「あぁ、そうだった。今思い出したよ。懐かしいな」
「やっぱりブレッドも知ってるんだ〜♪」
「エッ?」
不意に、本当に意識せずにリーダーの事を名前で呼び捨てにしていた。
自分でも其処の事に気付いて恥ずかしさと気まずさを感じていた。
「…………クリオ、今俺の事名前で呼んだよね?」
「あ、あの……その……////」
自分でも何を言って良いのか判らなくなっていく。
頭が真っ白になって、見つめてくるリーダーは格好良いな、とか馴れ馴れしいって怒られるのかな?とか思考がぐちゃぐちゃになっていく。
「す、すみませんでした!!」
そして気付いた時には何故か頭を下げていた。
恥ずかしい、すぐにでもこの場から走り去りたかったがそういう訳にもいかない。
「……………」
「……クリオ、俺は怒ってるわけじゃない。どっちかって言うと……嬉しいんだ」
「リーダー……?」
予想外の言葉が返ってきて私も恐る恐る顔を上げた。
すると目の前のリーダーは少し頬を赤く染めて、照れくさそうにしている。
「だってさ、クリオと歳は同じなのにずっと俺の事リーダーって言ってるだろ?だから、何となく違和感ってのがあってさ……」
「でも、リーダーは私の上官だから!!」
「それも任務の時だけだろ?だからプライベートまでリーダーって呼ぶのは変じゃないか?」
「あ、それは……」
目の前にリーダーの顔が迫ってる。
今までにないくらい近い距離に居る。
心臓がバクバク言ってるのがリーダーに伝わるんじゃないかってくらい。
「り、リーダー……////」
「俺の名前はブレッド。だろ?」
耳の先まで真っ赤になってるのが自分でも判る。
「え、あ、その////」
「ブレッド」
「ブレッ……ド……////」
「そう。それでいいんだよ」
目の前にリーダーの顔があって、微笑んでる。
私の心臓はバクバクしてて今にも破裂しそうで、苦しい。
でもリーダーの顔から視線を逸らす事が出来なくて、その瞳に引き込まれそうになる。
「まぁいきなり任務中に名前で呼ぶのも変だし、まだ慣れないだろ?だからこういうプライベートな時間だけは名前で呼んでくれないか?」
「う、うん」
あまりに突然の出来事で頭が上手く働かないけど、取り敢えずリーダーとの距離が少し近づいた気がする。
それを思うと自然と頬が緩んでしまう。
「えへへ////」
「ん?どうしたんだ?」
「なんか幸せだな〜って////」
「……ったく////」
リーダー――ブレッドは照れ臭いのか、そっぽを向いて指で頬を掻いている。
今この瞬間、ほんの少しだけどブレッドとの心の距離が近づいた。
私とブレッドの想いが重なる日はまだまだ、もっと、ずっと遠くのかもしれない。
でも、それは決して永遠じゃない。
だっては私の想いはグングン加速してるから。
この想いはもう止められないから。
「あっそうだ。ねぇ……ブレッド////」
普通に話しかけようとしてるけどやっぱりまだ照れ臭い。
茹で蛸、とまでは行かないけど多分私の頬は紅く染まってるだろう。
「ど、どうした////?」
でもそれはブレッドも同じで、振り向いたその頬はほんのり紅くなってる。
「あの、まだ、お昼って食べてないよね?だったら一緒に////」
「そういえばまだだったな……それじゃあ行くか?」
「うんッ!!」
私は先を行くブレッドの少し後ろを歩いた。
食堂に行くまでにもブレッドと本当にいろんな話をした。
さっきの子供の頃の想い出や、最近の話。
共通の話題があったり互いの趣味が判ったり。
ヴァリムの状勢の話をした時は流石に真剣な顔をしてた。
そんな風に話をしていたらあっという間に食堂に着いてた。
もう少し食堂までの道が長かったらな〜なんて考えてたらブレッドはさっさとカウンターに歩いていってた。
「どうした?さっさとしないと遅くなるぞ〜?」
「あっうん!!」
先に行って酷いと思ったけど、それでも私の分も一緒に頼んでくれるみたいでちょっと嬉しい。
「で、何にする?」
「ん〜〜ブレッドは決めた?」
「俺?そうだな……軽くで良いからハンバーガーセットにしておくよ」
「あっじゃあ私もそれにしよっ!」
2人分のセットを貰って席に着く。
そして談笑しながら食事を始めたけど、私は此処に来るまでに一つの決心を固めていた。
ブレッドを映画に誘う事だ。
多分、このチャンスを無くせば、映画に誘うのはもう無理かもしれない。
だから私は、勇気を振り絞った。
「あ、あの、ブレッド……?」
「ん?どうした、クリオ」
「あ、あの、その……////」
覚悟は出来ていたはずなのに次の言葉が出てこない。
早く話そうと気持ちばかりが焦って、余計頭の中が混乱して、真っ白になる。
「えっと……その…………なんでもないです……」
気付いた時には私の口はそう動いてた。
「そうか?まぁ、それなら良いんだけど」
そう言ったっきりブレッドは食事に専念してしまう。
私の馬鹿、どうしてこんな時にだけ勇気が出せないのよ……
今更話を掘り返しても余計変だと思うからもう一度話そうなんて気にはならなかった。
激しく自己嫌悪だ。
お互い黙ったまま食事だけが進んでいく。
「はぁ……」
「ホントどうしたんだ?さっきから変だぞ?」
「え?ううん。何でもないよ!!」
「顔紅いぞ?熱でもあるのか?」
テーブルで向かい合って食べてた事とブレッドと2人きりだった事で私の顔はずっと火照ったままだった。
それなのに変な態度取ったから風邪を引いてると勘違いされたみたいだ。
必死にごまかそうとするけど、ブレッドの腕が伸びてきて――
「ひゃっ!?」
「…………少しだけど、熱っぽいな。もう部屋に帰って休むか?」
額に当てられたブレッドの手。
私より体温が低いのか、少し冷たくて、心地よくて、暖かい。
このままずっと触れていて欲しいけど、流石にこんな場所でこの状況のままだと色々面倒な事になる。
「だ、大丈夫ですよ〜私、身体だけは丈夫なんです」
「けど、疲れてる時に風邪なんか引いたら厄介だろ?だったら――」
「平気です!!ホント、大丈夫ですから……」
本当はつきっきりで看病して欲しかったりするけど、そんな事になったらこっちの身が持たない。
なんとか必死に言い訳を並べるけど激しく動いたのがマズかった。
ポケットからひらりと舞い落ちる映画のペアチケット。
ブレッドを誘って行きたかった、例の映画のチケットだ。
「ん?何か落ちたぞ」
「あ〜〜〜〜ッ!!それはッ!!」
「『孤立した戦場』これは……前に話してた映画のチケット……」
「………………ブレッドと行きたかったの……前に凄く盛り上がったから、チケット用意したら付き合ってくれるかなって……」
凄く恥ずかしかったけど精一杯2人で行きたいって事をアピールする。
卑怯な手かもしれないけどこのまま変な言い訳するよりは上手くいくと思った。
「そっか……さっきもこの話題を出そうとして?」
「…………////」
返事をするのも恥ずかしくて頷くだけで返事をしてしまう。
ブレッドは私の話を聞いた時から凄く罰が悪そうな顔をしている。
やっぱり私が誘ったら迷惑だったんだ。
「…………実はさ、ずっとクリオに言いたい事があったんだ」
「エッ?な、なんですか?」
少し緊張する。
考えてみればブレッドから個人的な事を話されるのは初めてだった。
「うん……これなんだ」
ブレッドがポケットから紙切れを取り出してそれをテーブルに置いた。
それは見慣れた2枚のチケット。
「これって『孤立した戦場』のチケット……まさかブレッドも?」
「あぁ、クリオと話した後で友達から譲って貰ったんだ。それでいつ誘おうかと迷ってたんだ。ほら。最近お互いに忙しかったからさ」
そういえば確かにブレッドが何か言いたそうにしていた事は何度かあった。
でもそう言う時に限ってどちらかが呼び出されたり、出撃があったりしたんだ。
「そうだったんですか……私も気になってたけど忙しいから忘れてました」
「まぁ仕方ないさ。それより……どうする?」
「どうするって?」
「いや、お互い2枚ずつチケットを買ってたんだ。このままだと2枚無駄になるだろ」
「あっそうですね。それじゃあ……――」
……………………
………………
…………
「やっぱり前評判通りで良かったね」
「あぁ。まぁ戦争やってる俺達は余計にそう思うな」
私とブレッドは約束通りに、休暇を利用して帝都まで足を運んだ。
別に映画を楽しむだけなら帝都まで行かなくても良かったのだが滅多に行けないから休暇に合わせて有休も取って、一泊二日のお休みを貰ったからだ。
そしてたった今目的の映画を見終えて映画館から出たところだった。
目的の映画『孤立した戦場』は実話を元に構成された戦争映画。
ずっと昔、ヴァリムとの戦闘で退路を断たれ友軍からも見放された一個小隊。
彼らは運命を呪い、絶望し、仲間の間でも喧嘩が絶えなかった。
けど小隊長の言葉で再び団結し、最後の瞬間まで任務を遂げようと戦い抜いた。
残されていた隊員の日記の最後のページには奇襲戦を仕掛けると記されており、その後の彼らの最後を知る者は居ない。
ストーリーは在り大抵だけど深く描かれた心理描写や、リアルな戦場の風景。
そして随所で本当の戦場での映像が挿入されていて、全体的なクオリティの高さが高く評価されていた。
それに私やブレッドにとってこの映画は明日の我が身かも知れない。
私達はすぐに映画の世界に引き込まれていった。
「でも、あの人達は結局どうなったんでしょうね?」
「さぁな……もしかしたら何人かは生き延びてこの話を伝えたのかも知れないな」
「そうかも知れないね」
「俺は守るよ、絶対。何が在ろうと最後まで諦めない」
「ブレッド……」
最近、ブレッドは凄く隊長らしくなってきたと思う。
冷静な判断、的確な指示、そして仲間を想う気持ち。
その姿は訓練生時代の時、授業で聞いたグレン将軍やグレンリーダーの活躍とイメージが重なる。
「うん……だったら私もずっとブレッドと一緒に戦いたい。一番側でずっと見ていたい」
「クリオ……?」
「あッ!!べ、別に深い意味はないですよ!?ただホントにそう思って////」
口が滑った。
今のはどう聞いたって好きですって言ってるようなもんだ。
恥ずかしさと気まずさでお互いまともに顔を見れないで居ると映画館の入り口から見知った人物が出てきた。
「リーダー君、先に出るなら言って下さいね。カグヤと一緒に探しちゃいましたよ」
「まぁまぁ、こうして合流できたんですから良いじゃないですか」
入り口から歩いてくるのはリーネ主任とカグヤ。
あの時余った2枚のチケットは勿体ないからと私が主任とカグヤにプレゼントしたんだけど、どうせなら一緒に行こうと言う事になった。
お互いペアチケットを買っていたので席は離れていて、別々のタイミングで映画館から出る事になった。
それで私とブレッドは2人を待ちながら雑談をしていたのだ。
「ずいぶん待ったんじゃないですか?」
「ん、別に。クリオと映画の話しながら待ってたから。別に気にしないでくれ」
ブレッドは普段通りにリーネ主任と話をしてる。
もうさっきの事は気にしてないのかな?少しぐらい気にしてくれても良いのにな、と思ってしまう。
「あ〜ぁ……」
「どうしたんですか、クリオ」
「カグヤ……」
気落ちしてた所にカグヤが声を掛けてくれた。
「折角ブレッドさんとデートできたのに……どうして溜め息なんですか?」
「うん……結局なんか空回りばっかだったな〜〜って。映画は楽しめたけど、別に仲良くなれたわけでもないし、墓穴掘って恥ずかしい思いはするし……」
「始めから上手くいくはず無いですよ。ゆっくり少しずつ」
「で、でも……」
なんて言うかカグヤと話をする内にもの凄く自分が情けなくなってくる。
満足に告白もできない。
それで居て一人前に嫉妬はする。
「ホント、自分が情けない……」
「……もぉそんな事でどうするんですか!!…………だったら、私がブレッドさんを貰います!!」
「か、カグヤ!?」
あまりにも唐突なカグヤのライバル宣言は私を十分に驚かせた。
何度かカグヤと好みの男性のタイプで盛り上がった事があった。
けどその時カグヤはあまり乗り気じゃなかったし、そんな素振りも見せてなかった。
「い、いきなりどうしたのよ?」
「私はクリオの事、すっと応援しようと思ってました。いつも一生懸命なクリオを見ていて応援したいと思ってた。でも……それと同時にブレッドさんへの想いも大きくなっていったんです」
私は、黙っている事しか出来なかった。
カグヤの目を見ればそれが冗談なんかじゃないって判ったから。
「ずっと迷ってた。今日クリオが告白したら笑顔で喜んであげようって思ってたのに……でも今決めました。やっぱり諦めるなんて出来ない。だから、今日からはライバル、です」
「カグヤ……」
「…………それともこのまま諦めるんですか?」
「私は…………」
カグヤははっきりと自分の想いを見付けた、声に出した。
私はどうなんだろう?
ただ過去の想い出に恋い焦がれて、憧れや感謝の想いを『好き』と勘違いしてるんじゃないか?
本当に私はブレッドの事が好きなんだろうか?
「私は…………」
それは違う。
勘違いなんかじゃない。
始めは確かに憧れだった。
でも、一緒に闘うようになって、一緒に訓練するようになって、一緒に生活するようになって私は彼を知った。
想い出じゃないレガルド小隊の隊長として、友人として、そして……大好きな人として。
迷う理由なんて、無かった。
「私は……ブレッドの事が好き……カグヤ、あなたに負けない。ううん、あなた以上に、私はブレッドの事が大好き!!」
私の心は何処かすっきりとしていた。
今まで悩んでいたのが馬鹿に思えるくらいに私の中のブレッドに対する想いが見えていた。
彼を好きって想いで私は笑っていられる。
そして、カグヤも私と同じくらい綺麗な笑顔を浮かべていた。
「じゃあ今日から私達ライバルですね」
「うん。絶対負けないから」
「私だって負けませんよ」
私は、今日ほどカグヤに出逢えて良かったと思った事はなかった。
真っ直ぐ純真なカグヤの気持ちが私を後押ししてくれた。
いつかどちらかがブレッドに選ばれたとしてもカグヤなら祝福してあげれる気がする。
「じゃあ、いきましょうか」
「行くって何処へ?」
「これ以上ブレッドさんと主任を2人きりなんかにさせたくないんです」
そう言ってカグヤは駆け足でブレッドの元へと向かっていた。
「あぁ〜〜!!ずる〜〜い」
少し出遅れて私もあとを追って駆けだした。
「早い者勝ちですよ!」
少し先を行くカグヤ。
私はすぐにそれに追いつく。
「なら、此処で追い抜いても問題ないでしょ?」
「エッ!?」
「お先!!」
隣に並んだカグヤを追い抜いていく。
何か言ってるけどお構いなし。
私はもう止まらない。
だって私はこんなにも――
「ブレッドッ!!」
フリーだったブレッドの右腕を取り、腕を組む。
ブレッドは驚いて私を見下ろしてきた。
そして私はとびっきりの笑顔を浮かべた。
――ブレッドの事が大好きだから♪
〜fin〜
あとがき
え〜どうも。クレストです。
突発的に投稿した今回の話、如何でしたでしょうか?
いつもとは違った視点、クリオを主軸に進んでいくのですが俺自身一人称で全部の話しを書くのは始めてでなかなか難航しました。
それでも何とか形にはなったかなと思います。
クリオが抱くブレッドへの想いは尊敬と愛情の2つ。
もっと近くに居たいと思う反面、やはり隊長と部下という立場を考えて大胆になりきれない。
その想いの間で思い悩むクリオを救うのは親友のカグヤ。
しかし、その時から2人は親友から恋のライバルへと変わる。
そしてクリオは自分の気持ちに素直になり走り出した。
この辺の描写が難しかった所であり、本題でもあるわけですが……上手く伝われば幸いです。
クリオとカグヤのブレッドを巡る恋のバトルはまだ始まったばかり。
これから先もどんどん白熱し、当のブレッドはとばっちりを喰らう羽目に?
まぁその辺は次回の話で。
ではまたお会いしましょう。
管理人より
クレストさんよりご投稿頂きました!
いや〜、二人の心情がよく現れているかとw
しかし……次回が気になりますね(爆)
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