機甲兵団Jフェニックス 〜ある一人の男の物語〜
最終章 破滅の足音
−ヴァリム国内フォルセア秘密工場 PF格納庫−
いつも顔には冷たい笑みしか浮かべていないフォルセアだが、今日のフォルセアは少し嬉しそうに微笑んでいた。
いつものフォルセアを知っている人が今日のフォルセアを見たら別人ではないかと目を疑う事だろう。
(もう少しね・・・もう少しで、この機体にエルンを搭載できるわ)
フォルセアの目の前にはユイが設計し現在開発中の<ドゥルガー>があった。
と言ってもこれはオリジナルではないレプリカだ。
スペック上は同等だが重要なOSが積んでない。
ユイはそのOSを開発中だがフォルセアはエルンを積むつもりであった。
フォルセア自身エルンはただのOSとしか認識していないのである。
彼女がエルンの性能を知ったら心の底から喜ぶに違いない。
しかし、そんな事になったらどんなに恐ろしい事になるか・・・誰にでも容易に想像の付く事である。
フォルセアは以前にコバルト小隊により新型ゼクルヴを尽く壊された苦い経験がある。
そこで今回は、他人の作ったものを拝借しようと企んでいるわけだ。
「フォルセアさん、何を見とれているんだね」
フォルセアの普通の笑顔の前にみんな怖がって近寄れない中、初老の男エルンの生みの親ハロルド=エイカーは声を掛けた。
「あら、博士。あなたがこんな所に来るなんて珍しいわね」
「この機体は新型のPFかね?」
「そうよ。もうすぐで完成するのよ」
「諜報部のあんたがPFの開発か、前にGFも開発してなかったかね?」
「開発していたわよ」
今日のフォルセアはいつもよりも口が軽い。
「今日は機嫌が良いんだな」
「そうかしら、何時もと変わらないと思うけど?」
「いい男でも出来たんかね?」
「何で、そうなるのかしらね。男には興味ないわ・・・私にはやる事があるのよ」
「美人の女の言うセリフじゃないな。今晩食事でもどうかね?」
フォルセアは容姿だけなら美人だが彼女の性格や態度が人を近づけない様にしていた。
「あら、誘ってくれるの・・・ありがとう。でも、私にはやる事があるのよ。またの機会にね」
「それは、残念だ」
ハロルド=エイカー・・・・変わり者である。
−ヴァリム国内 廃棄基地−
レイドは山の上から基地を見下ろし少し奇妙に思った。
現在の時刻は明け方、まだ辺りは薄暗いというのに明かりが一つもついていないのだ。
最前線ならば明かりは点けないかも知れないが、ここは最前線からほど遠い後方の基地である。
それに基地からは人の気配がまったく感じられない様に思えた、まるで無人の基地のように見える。
(何か、静かすぎるような気がするな・・・)
『肯定、その通りです。あの基地の電源は動いていないようです』
「エルン・・・いちいち俺の頭の中の言葉に答えないで良いぞ」
『了解、以後気を付けます』
「で、あの基地の電源が動いてないのか?」
『肯定、自家発電機があると思われる場所からも基地のどの場所からも熱が出ていません』
「熱?」
『肯定、熱です。何かのエネルギーを発するのならばほぼ確実に熱を出してますが、あの基地からは熱源を一切探知できません。建造物の温度も外気温とほぼ変わりないようですので無人と思われます』
「でも、お前の情報だと博士がいるのはあの基地なんだろ?」
『肯定、その通りです。おそらく地下施設があるのではないでしょうか』
「防衛設備は・・・・なさそうに見えるけど、どうなんだろな?」
防衛施設がない事もレイドの違和感の原因の一つだった。
通常ならレーザー、ミサイル、キャノンなどの防衛施設があるのだがそれが一つも見あたらないのだ。
『おそらく、防衛設備は本当に存在しないのか隠されていると思われます』
「・・・このまま、ここで基地を見ていても仕方がないな、何があるかは分からないが行ってみるしかなさそうだな」
『肯定、当初の予定では基地を制圧する予定でしたから、その予定通り基地へは警戒しつつ接近するべきだと思います』
「じゃあ、決まりだな」
−ヴァリムPF輸送機内−
PF専用の輸送機、この輸送機は同時に三機のPFを運ぶ事が可能で、アルサレアでもヴァリムでもよく使われているタイプのものだ。
作戦実行直前なのでユイとマイはコックピット内で待機していた。
『ユイ=キサラギ中尉』
「なに、レオミル中尉」
ユイの通信機の向こうから今回の作戦の指揮をする諜報部所属ルロイ=レオミル中尉の声が聞こえてきた。
『ターゲットが捕獲予定地点に近づいてきたみたいなんで・・・頼みますよ』
「了解」
『もう一度言いますが、PFのパイロットは殺さないで下さいよ。それと、PFもメインフレームとヘッドフレームは無傷で確保願いたい』
「もう一度言うけどそれはかなり難しいわよ。私達が一度接触のした事のあるPFなんでしょ?」
『そうです。そのPFです。いざとなったら、私も出ますから三人で何とかしましょう』
「私はともかくあの機体が相手だとマイが何するか分からないわ・・・それをわかっていて私達に協力要請をだしたんでしょうね」
『当然です。ご安心下さい。あなた方が本気になってもそう簡単に捕まる相手ではありませんよ。その程度でしたらフォルセア様が欲しがりませんからね』
ルロイは言葉をそこだけやけに丁寧し、ユイが聞いてもいないのにフォルセアの命令だとあかした。
(わかってはいたけど、やはりフォルセアが欲しがっているのね)
ユイとマイの搭乗しているPFはいつも通りの機体だが武装は一切無く完全無装備だ。
捕獲が目的の作戦と聞いた二人は武装を全て外すと言ったからだ。
理由は余計な武器を積んでない方がPFの性能が大きく向上するからだ。
「ところで、レオミル中尉。あなたの機体の両肩に付いている兵器は何?」
『ああ、あれですか。奥の手ですよ、奥の手。だから安心して捕獲に専念して下さい』
「・・・了解」
ルロイが通信の回線を切ると、今度はマイから通信が入ってきた。
『なあ、姉貴』
「何、マイ? もうじきで戦闘に入るみたいだから待ってなさい」
『・・・捕獲をしようとしたけど抵抗したんで壊しちゃったって・・・ダメかな?』
「駄目よ。任務は正確に達成するものよ」
『なんかつまんねな・・・』
−ヴァリム国内 廃棄基地−
「エルン、上空から急降下で行くぞ」
『了解』
レイドはJフェニックスを大空に羽ばたかせある程度の高さまで行くと、基地に向かって急降下する。
基地に防衛設備があったとしてもJフェニックスは空中での性能が優れているし地上から行くよりも安全であろうとレイドは考えたからだ。
実際は空中から行けば遮蔽物も何もなく、目視でも見つけやすく、迎撃装置が付いていたら良い的になるだけなのだ。
少し考えれば分かる事なのだが・・・レイドの過信が自らの目を曇らせていた。
「さ〜て、どんな出迎えが待ってるかな?」
最初は眼下に小さくなっていた基地が大きくなって来る。
しかし、基地に動きはまったくないまま、Jフェニックスは基地の中央にあっさりと着地した。
「・・・・おい、エルン」
『なんでしょう、レイド様』
「なんでしょうって・・・何にも起きないじゃないか」
『どうやら本当に無人の基地のようです』
「なあ、何で博士がここにいるって分かったんだっけ?」
『私の収集した情報の中にあった情報からです』
「それが、デマって可能性は?」
『十分にあり得ます。むしろ、ここが無人ですのでデマの可能性の方が高いと思われます』
「はは・・・デマね。やっぱついてないな」
『レーダーに反応。上空にPF輸送機が接近中です』
レイドがレーダーに目をやると確かに反応があった。
「敵か・・・・本格的に運がなくなったかな・・・」
『輸送機からPFが出ました。機数2。迎撃を推奨します』
「はいはい、こうなりゃやけだよ・・・」
そうこうしている間に敵の機体。ユイの乗る<フォーチュン>とマイの乗る<ヌルク>が近づいてきた。
レイドは一瞬<ヌルク>に目を奪われた・・・
「な・・な・・・なんだありゃ?」
『ヴァリム軍のPFミルクとヌエのパーツを組み合わせたカスタムPFの様です』
「あ、そうなの・・・なんか弱そうだな」
マイは輸送機から出て地上に赤いJフェニックスを見つけるとニンマリとした。
また、砂漠の時の様に楽しい戦いが出来ると思ったからだ。
マイは強い敵と戦う事に最高の喜びを感じるのだ。
(へへ、ちょっとぐらい、壊しても良いよな・・・)
マイの頭にその考えが浮ぶのとほぼ同時にユイが通信を入れた。
『マイ。捕獲任務って事を忘れちゃ駄目よ』
「わかってるよ。まずは挨拶だな」
性格は違えども流石は双子、相手の考えは分かっている様だ。
しかし、マイはユイの話を聞いていながらもミルクヘッドの大きな目からレーザーを照射した。
牽制や挑発などではなく相手の機体を倒すつもりでだ。
『マイ!』
「わりぃ、わりぃ。手元が狂った」
レイドが弱そうだなと言った直後、マイの<ヌルク>の目が光り怪しい光線が放たれた。
「め・・・目から光線!」
レイドは初めて見る奇妙なPFがいきなり目から光線を出したので驚かされたが、機体を後ろに下げ回避するのは忘れていなかった。
今まで、レイドのいた場所にレーザーが当たる。
『注意して下さい』
「わかってる、わかってる」
『射程圏内に入りました』
「さぁて、はじめるか・・・」
レイドの顔にもマイに似た笑顔が生まれその目は冷たい獲物を求める目に変わる。
彼はすっかり戦いの魅力に取り憑かれてしまった様だ。とはいえ彼自身はそれに気が付いてはいない様に思われる。
レイドはJフェニックスのマシンガンを上空から降りてきた二機のPFに向かって放つ。
ユイとマイのPFは左右に分かれ避ける。
「逃がすか!」
レイドはマイの<ヌルク>の方をWCSカーソルで追いサブマシンガンを放つ、五発ほど弾が出たかと思うとすぐに弾切れになった。
「弾切れか」
『肯定、その通りです』
レイドはサブマシンガンを捨てると二手に分かれた機体の行方をレーダーで確認。
二機のPFはJフェニックスを挟み込む様に迫ってきていた。
だんだん、ミルクレッグの奇妙な足音が大きくなってくる。
レイドにはその足音がかなり不気味に感じられた。緊張感漂う戦闘中に聞くと力が抜けてしまう様な音だ。
ミルクレッグはこれを目的に足音が鳴る様にしたのだろうか・・・・謎である。
両側から来る機体の距離はほぼ同じ、レイドは機体を耳障りな音を出す<ヌルク>に向かわせる。
ブーストで距離を縮めカタールを横に振るう。
マイは機体をしゃがませてこれを紙一重で避ける。
お互いの接近スピードが速くてエルンの軌道修正は間に合わなかった。
(はずした?)
レイドは自分で自信のある攻撃であっただけに少し動揺してしまい。次の行動が遅れてしまった。
(攻撃きます)
(くそっ、回避行動を・・・)
マイはしゃがんでカタールをやり過ごすとそのままタックルを仕掛けた。
エルンの警告が頭の中に聞こえたがレイドの身体は思考速度に追いつかず、さらにエルンの緊急回避すらも間に合わない絶妙のタイミングであった。
Jフェニックスに下から上に突き上げる様な<ヌルク>のタックルが決まった。
レイドは後方に吹き飛ばされながら空中で機体を立て直し着地するとすぐに反撃を試みようとしたが、直ぐ背後にユイの<フォーチュン>がいた。
(何時の間に! まだ、距離はあったはずなのに)
レイドがそう思った時には既に遅く、機体を後ろから羽交い締めにされてしまった。
ユイはシンザンレッグの脚力をジャンプではなくステップに使って距離を詰めたのだ。
シンザンレッグの脚力は凄まじく並のブースターをはるかに超える勢いで上空に飛び上がる事が出来る。それで機体を上でなく前方に飛ばせばブースターの様に炎は目立たないし歩くのと違い足音もしないで移動する事が出来るのだ。
レイドは機体を色々動かしてみるがまったく身動きが取れなくなってしまった。
Jフェニックスを羽交い締めにして機体のパイロットから通信が入ってきた。
『こちら、ヴァリム軍所属。ユイ=キサラギ中尉。無駄抵抗は止めなさい。抵抗しなければ命までは取らないわ』
「誰が投降何かするか!」
『この状況が分からないの? あなたには投降する以外に道はないわ』
「だから、投降はしないって言ってるだろ!!」
レイドは思いっきり叫び返した・・・
(こんな所で終わってたまるか・・・こんな所で・・・)
ユイはレイドの態度に呆れた。
(マイ以外にも強情な人間はいるものなのね・・・仕方がないわね)
「ユイ=キサラギからレオミル中尉へ、輸送機を降ろして捕獲したわ」
『了解、今降りてきます』
上空から輸送機が降りてくる。
(この任務はこれで終わりね・・・)
『姉貴〜もう終わりかよ。つまんねえぞ』
「マイ、任務は楽な方が良いわ」
『あ〜あ、けっきょく何時もこうなんだよな・・・直ぐに終わっちまう』
「しかたないでしょ・・・それが普通なのよ」
レイドはエルンが傍受している双子のその会話を聞いていた。
(・・・何か手はないのか・・・!・・そうだ)
「エルン、ブースト出力を限界まで上げろ!」
『・・・推進剤がすぐに無くなってしまいますがよろしいのですか?』
「ああ、構わない。お前だって博士に会う前に捕まるのは嫌だろ」
『私には好き嫌いというものが良くわかりませんが、このまま捕まるのは賛成できかねます』
「じゃあ、やれ」
輸送機がちょうど近づいてきた。
『了解、PFリミッター解除、ブースト最大出力200%増加』
「くっくっく・・・行っくぜぇぇぇぇぇ!!!」
レイドは何のためらいもなくブーストペダルを床まで踏みつけた。
Jフェニックスの背面から尋常ではない火柱が上がる。
その姿はまるで光の柱の様だ。
後ろから羽交い締めにしていたユイは仕方が無く<フォーチュン>をJフェニックスから離れる。
ユイの機体表面は塗装が焦げて真っ黒になっていた。
「落ちろぉ!」
ユイの機体を振り解き自由になったJフェニックスが急上昇したかと思うとすぐに急降下してきて輸送機のコックピットをカタールで切り取った。
レイドのJフェニックスの動きに比べればスローモーションの様な速度で輸送機が地面に向かって落ちて行く。
(こいつは良い・・・・最高だ!)
急加速により並のPFよりも遙かに大きい負荷を身体に受け、何処というわけではなく全身が隈無く激しく痛み、心臓は激しく脈打ち、鼻からは鼻血まで出ている。
しかし、今のレイドにとってその痛みすら快感に変わっていた。
『警告、これ以上は危険です。通常の性能に戻します』
(まだだ! あいつらを倒してからだ!!)
今のレイドはまともに声すら出せない状態だったが本人は気付いてもいない。
目先の敵を倒す事しか考えていないのだ。
これまで起こった事に対する怒りを、レイドは何時の間にか敵に投影する様になっていた。
(貴様らさえいなければ・・・)
レイドが怒りを爆発させ全ての敵を恨みの炎で焼き尽くそうとした時。
Jフェニックスの背後に輸送機の残骸が落ちてきて、輸送機が地面に激突する寸前、一機のPFが飛び出した。ルロイの機体だ。
ルロイが通信を入れてきた。
『レイド・・・お前は何処まで俺の邪魔をすれば気が済むんだ?』
レイドはその声を聞いたとたん全身に鳥肌がたち、だだでさえ顔色が悪くなっているのにさらに顔が青ざめた。
銃を突き付けられ初めて感じた死ぬかも知れないと言う恐怖、それが蘇ってきたのだ。
(ルロイ・・・レオミル・・あの男か)
『レイド、返事ぐらいしてくれても良いだろ?』
以前のレイドならばそのまま恐怖に飲み込まれたかも知れないが今の彼は違う。
その恐怖さえも彼の狂気を助長させる糧となる。
(殺す!)
「あああぁぁぁぁぁぁー!」
声にならない叫び声を上げながらルロイのPFに機体を突撃させる。
ブースト性能は限界を超えた設定のままなので凄まじい速度で長い光の尾を引きながら上空にいるルロイに向かって行く。ルロイは距離をとるためにさらに上空に機体を上昇させる。
マイが<ヌルク>をJフェニックスとルロイのPFの間に割り込ませレイドの機体を迎え撃とうとする。
(邪魔だ・・・)
『私の事を忘・・』
マイの予想を上回る速度で上昇するレイドの機体が間に入ったマイの機体に一瞬にして迫るとカタールを振るう。
話している途中で攻撃を受けマイの言葉はとぎれてしまった
マイはこれを避けきれなかった。ミルクヘッドに描いてある口から上は綺麗に切断された・・・なまじミルクヘッドなだけにその光景は不気味であった。
しかし、マイもただのパイロットではない、ヘッドフレームを切断されながらも横を通り過ぎようとしたJフェニックスの足を掴みブースト全開で引っ張る。
『忘れるなって言ってるだろうが! セリフぐらい最後まで言わせろ!!』
マイは接触回線で怒鳴りつける。
しかし、ブーストの出力はJフェニックスの方が圧倒的に高い。
スピードは高機動型のPF並に落ちたもののマイの<ヌルク>を引っ張りながらルロイの機体を追いかけた。
しかし、ルロイの機体は高速戦闘用になっているのでその距離はなかなか縮まらない。
(邪魔な奴だな・・・こっちから片づけるか?)
『逃がさねえぞ!』
一方、ユイはその光景を少し離れて傍観していた。
(マイも良くやるわね・・・あんな危なっかしいJフェニックスは出来れば相手にしたくないんだけど・・・これも任務だからしかたがないわね)
ユイは<フォーチュン>をジャンプさせる。
ユイの機体のスピードは最高速度ギリギリまでチューンナップされているのでJフェニックスとその足に取り付いているマイの機体に追いつくことができた。
「マイ、その機体から離れなさい」
『今、離したら追いつけなくなっちまうだろ!』
(マイが言うのももっともか・・・)
ユイはそう言いながら<フォーチュン>にJフェニックス背後に迫る。
(邪魔をするな!!!)
ユイの接近に気が付いたレイドはJフェニックスの右足にくっついているマイの機体を回し蹴りの要領で振り回しユイのPFにぶつけた。
(本当にこういう無茶なパイロットは嫌になるわね・・・)
ユイの機体は共に地に落ちて行ったが、マイはまだしがみついていた。
(しつこい奴だな)
『警告、推進剤の残量が0になりました』
(!!!)
エルンが警告を発したとたんブースターの炎が消えた。
『茶番はここまでだレイド』
今まで逃げていたルロイが両肩に搭載されたミサイルらしきものを発射する。
推進剤の切れたJフェニックスでは回避もままならずルロイの放ったミサイルはレイドのPFに着弾した。
その衝撃はほとんど無く機体への直接的なダメージも皆無であった。
しかし、そのミサイルは機体に外から見えるダメージを与えなかったが内部に大きなダメージを与えていた。
(何だ? 何が起こったんだ? エルン、エルン返事をしろ!)
エルンの返事はないコックピット内のモニターも照明も何もかもが消え暗闇になる。先ほどのミサイルが着弾した途端にこうなったのだ。
レイドは色々なスイッチを手当たり次第に押してみたが何の反応もない。
(どうなっているんだ・・・何が起こった?・・どうなってんだよ、おい・・・・エルン返事をしろよ!)
エルンの返事はなく、暗闇の中でJフェニックスが落下していく事を感じられるだけであった。
先ほどまでの気分の高揚はレイドには既に無く、機体が落下して行く感覚がレイドをすっかり怯えきらせていた。
(エルン・・・エルン・・お前だけが頼りなんだ・・・お前だけが・・・・なんか、怒らせるようなことを俺が言ったか?・・・なんなんだよ・・・どうしたんだよ)
今までの加速のGを上回る衝撃がレイドの身体を襲う。
地面に衝突したのだ。
(な・・・なん・・だ)
レイドはそのまま意識を失ってしまった。
一方、足にしがみついていたマイの機体も停止し、レイドのJフェニックスと共に落下して地面に衝突していた。
マイは意識を保っており自分でハッチを開けて外に出る事が出来た。
「いって〜、こら! ルロイ!! 何しやがんだてめえ!!!」
マイは頭をぶつけたのか血を流しているが文句を言うほどの元気がある。
しかし、PFの中にいるルロイには聞こえるはずもなかった。
「ルロイ降りてこい! ぶん殴ってやる!!」
マイが腕を振り回して騒いでいると、聞こえたのかどうかはわからないがルロイとユイがPFを歩かせて近寄ってきた。
『マイ、そのPFにパイロットを捕縛しなさい』
ユイは外部スピーカーでマイにそう言うと自分もPFから降りてきる。
マイの所に銃とマイク付きの小型ヘッドフォンを持ってユイが駆け寄ってきた。
「大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だよ」
ユイの表情は何時もとまったく変わりはないが双子の妹を心配しているようだ。
「銃は?」
「持ってくるのを忘れたから基地に置きっぱなしだな」
「まったく、仕方がないわね。あなたはJフェニックスのハッチを開けて頂戴」
「わかった」
マイはJフェニックスの足元に走っていきハッチを開けるスイッチを探す。
ユイはコックピットハッチの近くで銃をいつでも撃てる様にして待機。
「マイ、見つかった?」
「あったけどよ〜、開かないみたいだぞ」
「レオミル中尉、PFでハッチをこじ開けて」
『了解、離れていて下さいよ』
ユイが離れるとルロイがPFの手を伸ばしてハッチを強引にこじ開けた。
ユイが銃を構えコックピットを覗き込むと、レイドが気絶しているのが見えた。
反応はない、ゆっくり近づき足で軽く蹴ってみても何の反応もない。
(死んだのかしらね?)
少し調べてみるとレイドの命はまだ脈打っていた。
「レオミル中尉、ターゲットの怪我が酷いわ。救護班をすぐに呼んで頂戴」
『了解、すぐに呼びます。私は周囲の警戒をしておきますから応急処置でもしてやって下さい』
「わかったわ・・・ところであなたはこの男と知り合いなの?」
『どうしてそんな事聞くんですか?』
「少し気になっただけよ」
『まあ、一応その男と私は知り合いでしょうね』
「そう」
(このJフェニックスのパイロットも私達と同じ末路か・・・)
ユイは何となくそんな考えが頭に浮かんだ。
−ヴァリム国内フォルセア秘密工場 フォルセア執務室−
「そうわかったわ・・・ご苦労。ルロイ今度は上手くいったようね・・・良かったわ、これからも私のために働いて頂戴」
フォルセアは受話器を置くと今度は内線でどこかに繋げた。
『何でしょうか、フォルセア様』
「博士を呼んで頂戴」
『了解しました』
数分後、博士が部屋に来る。
ハロルド博士が部屋に入るとフォルセアは爪の手入れをしていた。フォルセアがこんな事をするなど珍しい事である。
そして、それがかえって不気味なのだが博士は気にもしない。
「エルンとパイロットは回収できた様だな」
「ええ、お陰様でね。追跡装置が役に立ったみたいよ」
「それは良かった。それで・・・いつ着くのかね?」
「予定では明日よ。よろしく頼んだわよ。あなたにはエルンの量産化を任せているんだから」
「ああ、わかっているよ。戦闘AIのエルンが量産できればパイロットは入らなくなるからな・・・それでも、指揮をする人間は必要だがな」
「それでも、かなりの戦死者を減らせるわ」
「おまえさんがそんな事を言うとはな・・・・」
「あら? 私だって好きで人を殺しているわけじゃないのよ。殺すべき人間しか今まで殺した事はないわ」
「それは、失礼したな」
フォルセアは未だにエルンの事を戦闘のサポートをする半自立起動型のAIとしか認識していない。
エルンの性能を全て把握しているのは博士と今では死んでしまった彼の技術者仲間、後はレイドだけなのだ。
−3ヶ月後−
レイドはフォルセアの監視下で生かされていた。
実際はキサラギ研究所に回されアルサレアの人体実験の成果がどれほどのものか知るための研究用のサンプルとして色々と実験をされているのであった。
エルンを作ったハロルド博士は<ドゥルガー>に積まれたエルンとそのコックピット内で話をしていた。
「エルン・・・お前はこの戦争を終わらせるために私が作った最高傑作だ」
『ありがとうございます』
「だがな、お前は危険すぎる。戦争を終わらせるどころかより凄惨なものへと変える可能性が強い。フォルセアの奴には最低限のデータだけ渡しておいたから大丈夫だが・・・私は迷っているのだよ。お前を壊すかどうかをな・・・・わかるか?」
『つまり私を廃棄するかどうか検討しているという事ですね』
「そう言う事だな・・・」
『私は博士の決定に従うまでです』
「そうだろうな」
『博士、通信が入りました』
「まわしてくれ」
モニターにフォルセアの顔が映し出される。
『博士、ゼクルヴに積んだプロトタイプの起動実験を開始するわ』
「わかった、今そっちに行く」
『待ってるわ』
フォルセアの顔がモニターから消える。
その顔はいつも通りの冷淡な顔であった。
「エルン・・・私に何かあったらな、お前が自分で正しいと判断した通りに行動しろ」
『私は自分の行動を自分で決められません。命令を受けて行動する様にプログラミングされています』
「それは、表向きの回答・・・お前も分かっているはずだ。なぜならお前は・・・私の・・」
『なんでしょうか?』
「いや、何でもない」
−1ヶ月後−
ヴァリム軍のPF演習場でレイドはエルンを搭載した<ドゥルガー>コックピットに座っていた。
『レイド様、お久しぶりです』
「・・・・・・レイド?・・・ああ、そうか俺の事か」
『如何なさいました?』
「何でもない」
『今日のフォルセア様からのミッションをお伝えします・・・・』
演習場の管制室、フォルセアが演習の様子を見学している。その横にはルロイの姿も見て取れた。
「フォルセア様、何故レイドを生かしておくのでしょうか、もう用済みではありませんか?」
「・・・・そうでもないのよ。あのエルンとか言う機械、博士がよこしたデータ以上の何かを持っているみたいなのよ」
「ですが、エルンがあるのでしたらレイドはいらないのでは?」
「そのエルンがレイドと博士の言う事しか聞かないと言ったのよ」
「エルンがですか?」
「そうよ」
「しかし、あれはただのAI・・・」
「そうでもないみたいね」
「となると、博士は始末してしまいましたからね・・・それで、レイドの洗脳ですかなるほど」
「もっとも、あのエルン・・・洗脳にも気が付いてレイドの言う通りにはしているけどデータは渡さないわ・・・レイドの方も元の人格は頑なに奥に閉じこもって表に出ない状態みたいだし、しばらくはあのまま戦力として使っていた方が良いみたいね」
「しかし、危険ではありませんか?」
「キサラギ研究所の洗脳技術は実証済みよ。心配ないわ」
「確かに、戦力として使うにはちょうど良いですが・・・」
「ルロイ・・貴方、ちょっと喋り過ぎよ。私はでしゃばりが嫌いなの・・・・知ってるでしょ?」
「申し訳ありませんでした」
・・・レイド=グットハントという名の男はこの世から消えた。
ある一人の男の人生という物語はこれで終わり、終わりとは何時もあっけないものである。
・・・本を閉じる様にあっけなく終わる。
大概はページが終わり、本は閉じられる。
まれに、自ら途中で閉じる人間もいる。
その人間はそこに書かれている文章の凄惨さに耐えられなかったのだろうか?
ただ単調な文章に嫌気がさしただけなのだろうか?
それは閉じた本人にしか分からないが、一つ確かな事は、本はいつでも閉じる事が出来るという事だ。
どんな内容でも最後まで読むか、途中で読むのを止めるか、読み手は自由に選べる。
・・・ただそこに書いてある文章は何らかの意味を持ち、何かが記されているのかも知れない。
何の意味もないものはこの世に何一つとして存在はしない。
意味のないものがあるならばそれははじめからこの世にはないもの。
・・・本を閉じる前に目に付いた言葉の意味を考えても良いと思いませんか?
――最後まで読んで頂いた方々 ありがとうございます――
−あとがき−
バーニィです。非常に曖昧な形ながら「ある一人の男の物語」別名レイドの破滅への珍道中記は完結です。
私の表現力不足によりかなりわけがわからん状態になっているかも知れませんが、どうかご勘弁を・・・なにぶん、国語は苦手なものでしてね。
思い起こせば色々なキャラを出したのが失敗でした。まとまりのない作品であったと反省しております。
よくもまあ、ここまで恥を忍んで書いたものです。まったくお恥ずかしい限りの駄文です。
まあ、単純にレイド君は洗脳されてフォルセアの道具になってしまったという話なんですけど・・・なんだかなぁ
管理人より
バーニィさんより最終章をご投稿頂きました!!
ふむ………………………………………………結局レイドは不幸だった、と(爆)
と言うわけで、完結お疲れ様でした!!
でも、何か最後が曖昧なせいか、まだ続きそうな感じもありますね(苦笑)
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