機甲兵団Jフェニックス 〜ある一人の男の物語〜
第五章 逃避行
レイドが基地を脱走してからちょうど一日。
ミラムーンの国境付近の山にレイドはその身を隠していた。
少し様子を見るためにこの山の中に身を隠していたのだが、どうやら追っ手も無いようなので、レイドはヴァリムへの国境越えを開始する事を決意した。
「エルン・・・プランは?」
『二通りあります。プラン1、ミラムーン経由でヴァリムへ侵入。この場合は時間と敵との遭遇率が高くなりますが敵戦力そのものはたいしたことは無いと思われます』
「もう一つは?」
『プラン2、このままアルサレアとヴァリムの国境へ直行し正面からの強行突破。この場合、目的地により早く到達できますが敵戦力はそれ相応の戦力となります』
レイドは少し悩んだが国境越えなど経験した事もなく、つい最近まで戦争も直接体験した事の無かった彼にどちらが良いのかなど判断できなかった。
「う〜ん、お前はどっちが良いと思う?」
『私はプラン2を推奨します。敵戦力はプラン1に比べ多いですが私にお任せ下されば微々たるものです』
「また、お前に任せるのか・・・・あれ、危ないんだよな」
『前回の戦闘で加減がわかりましたので大丈夫です』
「ホントか?」
『肯定、99%安全です』
「残りの1%は?」
『予期せぬ事態が起こった場合です』
「薬のこともあるから早いほうが良いからな・・・・よし、プラン2で行こう。でも、俺が操縦するからな・・・ところで、成功率ってどれくらいだろうな?」
『私の指示通りに動いて頂ければ成功率は95%です』
「けっこう高いな、じゃあ、行動開始だな」
『了解、衛星からの写真で国境警備部隊の配置、周辺の地理を調べ、ルートを計算しますのでしばらくお待ち下さい』
「わかった」
−アルサレア国境警備部隊仮設基地−
森の中、基地とは呼ぶにはお粗末は緑色のテントが2、3設置され、PFは迷彩色の大きな布を被せられ気休めながらも隠されている。
そのテントの中の一つは通信機器が所狭しと置かれ通信室兼司令室の役割を果たしていた。
テントの中には長い金髪を首の後ろで髪留めでまとめあげ、手には缶ビールを手にし椅子に座っている女性とオペレーターのまだ幼さの残る少女が一人椅子に座って通信機に耳を傾けていた。
「暇ねぇ〜・・・」
そう言うとビールを一口飲んだ。
金髪の女性、ロイナーデ=クリスタ。彼女はロイナーデ小隊の隊長でこの辺境の国境警備に当たっていた。
ヴァリムが国境を越えて侵入してきたり密輸品を運ぶ組織を逮捕したりとやる事は色々とあるのだが、ここ一ヶ月は平和そのものでこれと言って単調な任務以外は何事もなかった。
「隊長、本部から入電です」
「ん〜なんだって?」
「この付近にアルサレアの最新型PFを盗み、ヴァリムへ亡命を謀っている脱走兵が潜伏している模様、これを調査発見し捕らえよ。との事です。」
「やっと、まともな任務が来たわね。パイロット各員を呼び出して」
「了解しました」
「久々に、ロイナーデ小隊の出番ね」
ロイナーデ小隊、この部隊は単独でヴァリムの新型GF<闘神>を破壊し、その功績をたたえられ軍本部から多大なる評価を受けていながらも未だに辺境警備に甘んじていた。
その実力は他の小隊に比べ高い方でもあり、辺境警備にあたる小隊からは憧れの眼差しで見られてもいた。
「ロイ姉、巡回以外の任務が来たって?」
テントの中に白いベレー帽を被った元気の良い少女が入ってきた。
ロイナーデ小隊のPFパイロットの中でも中心的な人物のパピオン=クロウディアだ。
「他のみんなはどうした?」
「今来ると思うよ」
「お待たせしました」
「すみません。整備に手間取ってしまいました」
遅れてテント入ってきた二人はモミジ=タチバナとユキ=タチバナの兄弟だ。
「モミジ〜、フィアナは?」
隊長の前だというのに砕けた調子でとパピオンが聞く、ロイナーデも平然とした顔をしてビールを飲んでいる。
この何とも軍隊らしからぬ雰囲気はアルサレア軍の特徴の一つでもある。
「さっき、パピィを探してましたよ」
「え、ボクを? ロイ姉ちょっとフィアナを迎えに行ってくるね」
「パピィ〜どこ行きましたのぉ〜」
テントの外で犬でも呼ぶような調子でパピィことパピオンを呼ぶ声がした。
「フィアナ〜こっちだよぉ〜」
テントから顔だけ出してパピオンがフィアナを呼ぶ。
「そこに居ましたのね。私のパピィ」
フィアナ=フィン。彼女はテントに入るなりパピオンに抱きついた。
彼女が到着して、これでようやく主要メンバーが全員そろった。
「遅いぞ、パピオン狂」
「パピィを探していたのですから仕方が無いじゃありませんか、アル中の小隊長さん」
フィアナとロイナーデの間に目に見えない火花が飛び交う。
たちまちテントの中に戦場さながらの緊張感が漂う。
「ね、ねえ・・・ロイ姉。ボク達の今回の任務って何?」
「あ、ああ、そうだったな・・・・脱走兵の捕縛だ。で、作戦だが・・・」
「隊長、脱走兵が網に掛かりました! A−5ポイントです」
「もうかかったのか? 全員PFにさっさと搭乗しろ! フィアナ機はS装備への換装忘れるなよ」
「え〜私、射撃は苦手ですのに・・・」
「つべこべ言わずにサッサと行け〜」
ロイナーデはもの凄い剣幕でパイロット達をテントから追い出すと、缶に残っているビールを一気に飲み干した。
「・・・・ぬるいな」
−アルサレア国境警備隊監視区域 森林−
ほんの少し前の事だ。
レイドはエルンの指示に従いながら機体を森林の中歩かせていた。
「なあ、エルン・・・・空飛んじゃダメなのか?」
『上空は対空監視が厳しく、ジャンプをしたとたんに敵に補足されてしまいます』
「そうか・・・こんなにゆっくり歩いていて、何時になったら付くんだ?」
『予定では今日の夜にはアルサレアの国境を越える予定です』
「夜・・・・まだ、午前中だよな」
『正確な時刻をお教え致しましょうか?』
「いや、必要ない」
『左35度旋回して直進して下さい』
「左・・・35度、旋回っと・・」
レイドはずっとこの調子でPFを歩かせ続け飽き飽きしてきており、集中力が切れてきていた。
そんな時はミスをしやすいものである。
(ぁ・・・旋回しすぎかな・・)
と思いながらもPFを一歩前進させようとすると。
『停止して下さい』
「へ?」
既に一歩踏み出していた。
その足が地に着いたとたん、レーダーにミサイルの機影が三機映しだされた。
トラップに引っかかったのだ。
「やばっ・・迎撃と回避っと」
レイドはついつい機体をジャンプさせてしまった。
警告音がコックピット内に鳴り響く。
レイドは内心失敗したと思いながらもこちらに向かってくるミサイルをマシンガンで迎撃する。
普通のミサイルなら爆発して終わりなのだがそのミサイルは少し違った。爆発の規模が小さく少ない爆発の代わりに何かがばらまかれたのだ。
その小さい何かがレイドの乗るJフェニックスに付着したがこれと言って何かが起こるわけではなかった。
レイドは機体を着地させエルンに聞いてみる。
「・・・エルン・・・やっぱり見つかったかな?」
『肯定、国境警備部隊に見つかりました』
「こんなにあっさり見つかって・・・どこが成功率95%なんだよ!」
『それはレイド様が私の予想を上回るミスをしたからです』
「まあ・・・そうだな」
『敵に発見されたからには強行突破を推奨します』
「やっぱり、俺って運がないな・・・」
愚痴りながらも機体をジャンプさせ国境目差して急加速。
少し進むと。
『脱走兵、覚悟しろ!』
通信が入ったと同時に地上からキャノンの弾が赤いJフェニックスめがけて飛んできた。
(回避が間に合わない)
レイドの顔から血の気が引いた。
『緊急回避』
エルンが機体を急旋回させてこれを避ける。
「ありがと、エルン。高速で離脱するぞ」
『了解』
レイドは再び国境めざし再加速。
もちろん、下から砲撃したPFも後を追おうとしたが、まったく追いつけない。
『振り切りました』
「うっし、このまま一気にい・・・」
『緊急回避』
何かの接近を感知しレイドの言葉を遮りエルンが再び緊急回避をする。
「どうしたんだ? 俺には何にも見えなかったぞ」
『レーザーによる高速精密射撃です』
「なんで、先回りされているんだ?」
その狙撃はレーダーレンジ外から行われていた。
レイドはJフェニックスを最高速度で木の上を飛ばしていた。
エルンのおかげでブースト速度は通常のPFの限界速度である50なのだが・・・先ほどからそれでも見事に先回りされているのだ。
『先ほどレイド様が撃墜したミサイルに大量の超小型発信器が仕組まれておりそれが機体に幾つか付着したようです』
「ってことは・・・」
『緊急回避』
再度、エルンが緊急回避でレーザーを避ける。
「やばいな・・・」
『逃がさないぞ! 脱走兵!!』
やたらと元気の良い声が聞こえてきたと思うと、狙撃を気にして速度の落ちたレイドのPFに一機のJフェニックスが近寄ってきた。
パピオンのJフェニックスだ。
武装はレイドの機体と同じサブマシンガンとカタールである。
木の上でJフェニックス同士の高速空中戦が始まった
「おい、エルン。何で脱走がばれているんだ?」
『おそらく、チャップ=モンデルが尋問で直ぐに喋ったのでしょう』
(・・・最後まで嫌なおっさんだな・・・)
『よりによって、アルサレアの正義の象徴のJフェニックスでヴァリムに亡命しようなんて・・・御天道様が許してもこのボクが許さないぞ!!』
(アルサレアの正義の象徴だと・・・・・アルサレアの正義だぁ?・・・アルサレアのどこが正義なんだ・・)
「エルン! 向こうと回線をつなげ」
『了解』
レイドが冷たい目つきに変わる。
アルサレアに酷い目に遭わされてきたばかりの彼にパピオンの言葉が火を付けたのだ。
彼の心の中で不気味な獣が目を覚ました。
パピオンのJフェニックスがサブマシンガンで牽制してくるが、これをレイドはブースターの速度で避けて行く。
『おとなしく投降するんだ!』
「おい、アルサレアのパイロット! お前がどんな根拠で正義だとか言ってるのか知らないがな」
レイドが機体を反転させパピオンのJフェニックスに向かって正面から突撃。
パピオンはサブマシンガン撃ち続ける。
「その正義とやらを俺に見せてみろよ!」
サブマシンガンの弾を数発受けながらすれ違いざまにカタールを振りパピオンのJフェニックスの右肩のウイングを切り落とす。
『うわあぁぁ』
「アルサレアもヴァリムも、戦争やってる奴らには正義なんかありはしないんだよ!」
バランスを崩し地面に落下していくパピオン機だが衝突寸前で機体を立て直す。
レイドが追撃を仕掛けようとしたが狙撃により阻止された。
レーダーレンジ外からの狙撃は非常に厄介である。
「エルン、スナイパーを探せ」
『了解』
機体を立て直したパピオンが上昇してくる。
と同時にレーダーレンジ内に一機敵影が増えその敵がパワーモーターを撃ってきた。
ロイナーデ小隊の支援砲撃担当モミジの機体だ。
パワーモーターが弧を描きレイドに向かって飛んでくる。
『よくもやったなぁー』
(目の前のフェニックスか、支援砲撃の方が先か。支援砲撃だな・・・エルン! ブースト性能20%増加)
(了解)
(・・・今のは?)
口で喋るよりも早いので、レイドはいつものように思考をエルンに飛ばし指示を出したがエルンからの返事に違和感を感じて行動が少し遅れ、サブマシンガンの弾を少々喰らってしまった。
PFの通常最高速度の限界を超えたスピードに設定されたJフェニックスを支援砲撃してきたモミジのPFの元に移動させるレイド。
そのPFはレーダーレンジぎりぎりの所にいたが直ぐに到着した。
上空から急降下しながら狙いを絞る。
木々の隙間からJファーカスタムの支援砲撃仕様の機体が見えた。
モミジは機体そのものが鈍重なせいもあったろうが、赤いJフェニックスのスピードに驚き手に持ったバズーカを撃つのが遅れてしまいそれが致命傷となった。
レイドが着地寸前に右手のカタールを振るう、そして着地と同時に振り終わる。
モミジの機体はヘッドフレームと左アームフレームが見事に斬り取られた。
『モミジィー!』
パピオン機と繋ぎっぱなしの回線から何事か叫び声が聞こえてきた。
レイドは味方のパイロットの名前でも叫んだのだろう、と思った。
(背後にPF接近)
再びエルンの声に違和感を覚えながらもレーダーに目をやるとパピオンのJフェニックスがまだ距離があるものの背後に迫っていた。
確認した時には既に機体をジャンプさせている。
先ほどまでいたところにパピオンが着地する。
「くらえぇ!」
赤いJフェニックスが手にしているサブマシンガンが火を噴く。
パピオンは機体をバックさせこれを避ける。
『緊急回避』
「またかよ」
またもや、狙撃。
エルンが機体を動かしてくれなければレイドはとっくに撃墜されている。
「スナイパーは?」
『東、2121の地点です』
「仕留めるぞ」
レイドはエルンの示したポイントに急行した。
しばらく、進むとレーダーに反応があった。
「そこにいたかゃ、つっ」
『緊急回避』
レイドは独り言を言っている途中だったのでエレンの緊急回避で舌を噛んでしまった。
(もっと丁寧に回避できないのか?)
(否定、これ以上ゆっくり避けるのは無理です)
レイドの頭の中で一瞬浮かんだ問いに一瞬にしてエルンの答えが返ってきた。
(何で、お前の声が頭の中に聞こえるんだ?)
(レイド様が私に命令を行っているのと同じ要領で私の言葉をお伝えました。これですと効率よく情報のやりとりが可能となります)
(便利なもんだな・・・)
この間1秒足らず。
これは確かに便利である・・・が、この後レイドは頭痛に悩まされる事を知らない。
フィアナの乗ったPF、先ほどから狙撃をしていたスナイパーの姿が視認できた。
右手には大型のスナイパーライフルを装備して空いた左手で長い砲身を支えている。肩にはカウンターリングのようなものが装備されているが、これはミサイルなど誘導装置を狂わす電波兵器ではなく大型のレーダーである。
スナイパーライフルの長距離射程を活かすには既存のPF内蔵型レーダーでは精度が不足するのでロイナーデ小隊が特注で開発したものだ。
視認された事に気が付いたフィアナはスナイパーライフルを捨て、直ぐ脇の地面に突き刺しておいたカタールを手にした。
(正面から迎え撃つ気か・・・面白い)
「上等だぁーーーー」
レイドは顔にうっすらと笑みを浮かべた後、大声で叫びながらカタールで正面から斬りかかっていった。
距離が縮まりカタールを両者が振りかぶる。
『緊急回避』
「どわっ」
レイドがカタールを振ろうとした瞬間。エルンが機体を上空に上昇させた。
(いきなり何するんだ!)
(スナイパーライフルを壊して下さい)
(・・・わかった)
レイドはサブマシンガンをスナイパーライフルめがけて撃ちこれを壊した。
(これ以上の戦闘は危険です。国境を目差す事を提案します)
(まだだ!)
(目的は敵の撃破ではないはずです)
(まだ敵がいる!)
(敵の脅威は取り除きました)
(だが・・・・いや、そうか・・・そうだな・・・)
レイドはいつの間にか敵を撃破してみたいと言う欲求に囚われていた。
レイドは心の中にある敵を倒したい欲求を抑えエルンの提案に従う事にし、全速力で国境を目差した。
厄介なスナイパーライフルによる狙撃はもうなくレイドのPFに追いつけるPFも存在せず、レイドは難なく国境を突破する事に成功した。
ヴァリム国内に入ると直ぐに起伏の激しい岩場に身を隠し、Jフェニックスの機体表面に付いたアルサレア軍の小型追跡装置を地道に除去する作業に取りかかった。
(ふぅ〜後、一体幾つ付いているんだ? もう、十個は取ったぞ・・・何か、頭も痛いし、頭痛薬あったかな・・・)
−ヴァリム国内 サーリットン戦線最前線基地−
ここはヴァリム軍のサーリットン戦線における最前線基地。
格納庫では次から次へと代わる代わるPFが入れ替わり立ち替わり出入りしているので何時も忙しく整備員達が働いている。
その中で一番目立つミルクヘッドを使用したマイ専用機<ヌルク>、マイはこの機体を嫌がっていたがユイが乗れと言うので仕方が無く使用していた。
要請があり次第出撃できるようにユイもマイもコックピット内で待機している。
彼女たちの最近の任務はこの基地周辺の戦闘エリア内における味方部隊の救援だ。
味方部隊が不利になると直ぐに基地に入電してくる。基地がそれを双子に伝え彼女たちは援護に向かうわけだ。
いつもなら朝から連続で救援に出ているのだが今日は昼を過ぎても救援要請はなかった。
『姉貴、暇だからしりとりでもしないか?』
「マイ・・・静かに待ってなさい」
暇をもてあましているマイがユイに通信を入れ話し掛けてきた。
『良いじゃん、少しぐらい。最初は私からな・・・・イルカ』
「私ね・・・・癌」
『が、癌って、おい姉貴。「ん」で終わりだぜ・・・・わざと言ってないかそれ?』
「そんな事はないわ、私は真面目よ。これで満足したでしょ、少し黙ってなさい」
『何だかなぁ〜』
ユイはマイとの通信を切る。
考え事をしている時のユイといつも通りのマイの会話はこんなものだ。
『基地司令室から両キサラギ中尉へ、第6小隊苦戦中。援護願います』
「ユイ=キサラギより司令室へ、敵戦力は?」
『PF一個小隊です』
「了解、マイ=キサラギ中尉が単機で向かいます」
ユイは一個小隊だけならマイと二人で出る必要もないと判断した。
『了解しました』
「マイ・・・聞いたでしょ?」
『聞いたよ、今回、姉貴はいかないのか?』
「一個小隊ぐらいなら、あなた一人で十分でしょ」
『それもそうだな・・・悪いな、姉貴。それじゃあ、一人で楽しんでくるよ』
「別に良いわよ、私は戦いが楽しいわけではないもの」
『ふ〜ん、あたいは楽しくてたまらないけどな・・・』
「私とマイはコンセプトが違うの、その差よ。早く出撃しなさい。味方が全滅するわ」
『はい、はい』
ミルクヘッドが不気味に見えるマイの機体が格納庫から歩み出て行く。
格納庫内にはミルクレッグから発せられる奇妙な足音が響いていた。
−ヴァリム国内 国境付近 岩場−
レイドは夕方頃になってようやくJフェニックスに付いた追跡装置の除去を終え、コックピット内で今度は頭痛に悩まされていた。
「・・・・頭が痛いな・・こんな頭痛めったにないぞ」
『それはおそらく今日行われた戦闘中に私との交信で脳に負荷が掛かったせいでしょう』
「こうなる事を知ってたのか?」
『肯定、知っていました』
「知っていて使ったのかよ?」
『肯定、その通りです。あの場合は使わなければ撃破されるおそれがありました』
「・・・ふぅ、ま、良いけどさ。ところでお前さ、今更聞くのも何だけど、どうして博士の所に行く事にこだわるんだ?」
『否定、拘っているわけではありません。それが最前と判断したまでです』
「最前という、その根拠は?」
『私は博士に作られた存在であり、博士のために存在するだけです。博士の命令を聞くために博士に会いに行くのが最前と判断しました』
博士、博士と言うエルンに対し、レイドは疑問をぶつけてみた。
「あのさ、俺は何なの?」
『私のパイロットです』
「そうじゃなくて、俺の立場だよ」
『ですから、私のパイロットです』
返ってきた答えは単調そのもの、エルンにとって博士以外はどうでも良いようである。
「もしかして、俺がいなくても良いんじゃないのか?」
『否定、あなたはパイロットとして必要です。普段はあなたの命令で私は活動します』
「じゃあ、博士の命令は何なのさ?」
『博士の命令は絶対的なもので私の基本行動の元となるものです』
「そうじゃなくて、博士の命令は今のところ入ってないのか?」
『現在は博士からは何の命令も受けてはいません。ですから博士に会い。命令を受ける必要があります』
「今は博士に会う事が一番優先と言う事か・・・」
『肯定、その通りです。博士との接触はレイド様にとっても必要な事です』
「どうせ、俺は行く当てがないからな・・・頭の変な装置も取ってもらいたいしな。お前にとって博士ってなんなんだ?」
『私を造り出した人です』
「生みの親か・・・」
『否定、微妙にニュアンスが違います』
「微妙って・・・どこが違うんだよ」
『・・・・検索中・・・・』
しばらくエルンは考えているようだった。
いや、ただのプログラムなのだから考えると言う言葉は当てはまらないが、レイドには検索と言うより考えていると言う言葉の方が正しいように思えた。
『私にとって博士とは、生みの親でもありますが、むしろあなた方人間の言うところの【創造主】に近い存在です。その言葉は私にとって【定め】にも等しい絶対的なものです。博士の命令は私にとって人間の言うところの【運命】を決めるものです。ですから、私には【自分の存在理由】を知るためにも博士との接触は必要なものとなります』
「お前・・・・意味をわかって言ってるのか?」
『私はデータベースの中から適切な言葉を選び出し発言しています。ですから、意味はわかっていると言えます』
「・・・・お前は本当にただのプログラムなのかな?」
『・・・・』
レイドはエルンにほとほとあきれ果てた。いつの間にか頭痛を忘れるほどだ。
まさか、PFに搭載されたOSがこんな事を言うなどとは誰が想像するであろうか?
少なくともレイドにはエルンの回答は予想もしなかった言葉であった。
日が沈み夜の帳が降りてきた。
−アルサレア軍国境警備隊仮設基地−
ここはアルサレア国境警備隊仮設基地。ロイナーデ小隊の拠点である。
ようやく大破したモミジ機の回収が終わり隊員達は一息ついたところだ。
そのテントの中の一つでロイナーデとモミジが話していた。
「ロイ姉、ごめんなさい・・・また、機体を壊してしまいました」
「気にするな、モミジ。お前に怪我が無くて良かったよ」
「でも・・・」
「気にするなって! こう言う時は酒でも飲んで・・・って未成年だったな。ま、いっか、飲め飲め」
ロイナーデは楽しそうに笑顔を作りながら、自分が飲むつもりで机の上に置いていたチュウハイの缶をモミジに手渡し、飲むように薦めた・・・・良いのか小隊長?
「で、でわ、頂きます!」
缶のふたを開けると缶を凝視して手を止めるモミジ。
「モミジ、飲みます!」
そして、一気に飲み干した。
「良い飲みっぷりだな」
満足そうなロイナーデだが、モミジの様子が少しおかしい。
「リョ、リョヒィねぅえぇ〜」
「どうした?」
「め、目がまみゃりゅみゃすぅ〜」
その言葉を最後にモミジは地に倒れた。
「あちゃ〜、モミジは酒に弱いのか・・・・どうしたもんかな・・・」
別のテントでは、パピオンとフィアナが休憩中であった。
パピオンは大事な<くにまつ>をもう一体作り、<くにまつリュック>を完成すべく作業に勤しんでいた。
フィアナは不器用ながら一生懸命<くにまつリュック>を完成させようとしているパピオンの姿を見て微笑んでいた。
(パピオンは何をしても可愛いですわね)
と言った具合だ。
「あぁ〜疲れた。今日はここまでにしよ・・・やっぱ、ボクは細かい作業苦手だな」
「ねぇ、パピィ。そのリュック何時になったら完成するの?」
「ん〜わかんない。ボク不器用だから、時間掛かっちゃうんだ」
会話がとぎれしばし間が空き、パピオンは赤いJフェニックスのことを思い出しフィアナに聞いてみることにした。
「フィアナ・・・・あの赤いJフェニックスに乗った人はアルサレアから何で脱走しようとしたのかな?・・・・よりによってヴァリムなんかに行く事はないのに・・・」
「わからないですわ・・・でも、あのJフェニックスは新型らしいから、それをヴァリムに売り渡す気なのではないのかしら?」
「ますます許せないな。アルサレアの正義の象徴のJフェニックスをヴァリムに売り渡すなんて! しかも、よりによって新型だよ!」
「仕方ありませんわ。私達がヴァリムを憎むようにアルサレアを憎んでいる人もいるでしょうからね。アルサレアだって・・・認めたくはないですけど戦争をしている限りは人から恨まれずにはいられませんもの」
「でも、アルサレアはヴァリムみたいに普通の人達を戦争に巻き込んだりはしないよ!」
「パピィ・・・私もそう信じたいわ。そう在るべきだものね」
−ヴァリム国内 サーリットン戦線最前線基地−
双子は相変わらずコックピット内で待機していた。
彼女は一日の間の殆どをコックピット内で過ごしている。それほどここは忙しいのだ。
また、通信が入ってきた。
『司令室から、両キサラギ中尉へ』
今日一日だけでも何十回とこの言葉を聞いた事か、流石のユイも疲れ切っていたが、彼女はこうとも考えている。
(マイと私は所詮、消耗品の兵器・・・使えなければ捨てられる、反抗すれば修正される・・・・言われるがまま、なすがままに、周りの人間の都合の良いように働いていれば、少しでも・・・・ほんの少しでも長く生きていられるわ。マイが何を考えているかはわからないけど、あの子は私がいないと直ぐに死んでしまうのでしょうね)
『司令室から両キサラギ中尉へ』
返事がないので再度司令室から呼びかけが来た。
「こちら、ユイ=キサラギ。司令室、どうぞ」
『こちら司令室、レオミル中尉から作戦を開始するので輸送機へPFを移すようにとの連絡がありました』
「ユイ=キサラギ了解」
機体を起動させ、移動の準備をするユイ。
マイも今の通信を聞いていたはずだが、ミルクヘッドの目に光がない。
つまり起動させていないという事だ。
「マイ、今の通信聞いていたでしょ」
『・・・・』
返事がない。
「マイ、返事をしなさい」
『・・・・あと、五分・・・・』
寝ていたようだ。
どこでも寝られるマイがユイは少し羨ましいと思った。
「マイ、起きなさい。移動するのよ」
『・・・・うにゃ、むみゃもにゃみゅみゅみゅ・・・』
わけの分からない返事が返ってきた。
ユイは一瞬、新しい暗号かと思ったが直ぐにそうではないと気が付いた。
ユイは仕方がないのでマイを目覚めさせる奥の手を使用する事に決定した。
「起きなさい、0419号!」
『・・・・』
少し間を置くと不機嫌なマイの低い声が返ってきた。
『・・・姉貴、その名前で呼ばれるのは嫌いだって知ってるだろ?』
「あなたを、起こすにはこの名前で呼ぶのが一番良いから使ったまでよ」
『で・・・何だい?』
「移動よ、付いてきて」
『了解、0739号さん・・・』
マイがユイの事を0739号と呼ぶ、ユイはそう呼ばれてキサラギ研究所での昔の記憶を思い出し嫌な気分になった。
「マイ」
『あん?』
まだマイは不機嫌なようである。
「悪かったわね」
一言そう呟いた。
−ヴァリム国内 国境付近 岩場−
日も沈み辺りはすっかり暗くなり闇に覆われている。空気もすっかり冷えきって外には霧が立ちこめていた。
『レイド様、レイド様、起きて下さい。予定時刻になりました』
エルンの声で目を覚ましたレイドはゆっくりと瞳を開ける。
あれからしばらく仮眠をとっていたのだ
「時間か・・・」
『肯定、その通りです』
時刻は真夜中を少し過ぎたぐらいだ。
「じゃあ行くか・・・」
『了解、今度はミスをしないように私の指示に従って下さい』
「それ嫌みか・・・」
『否定、私には嫌みというものが良くわかりません』
レイドはエルンの指示通りに機体を動かし進んでいき、ちょうど夜が明けてきた頃。
小高い山の上から博士がいるという基地を見下ろす事が出来た。
「さてと・・・お前の生みの親の顔でも拝みに行きますかね」
−ちょっとした問題−
話の中でマイは0419号、ユイは0739号と呼ばれてましたがこの数値は闇雲に決めたわけではなく、ちょっとした暗号になってます。
さて問題、この数字の意味は何でしょうか?
別に解いたところでなにもありませんが試しに挑戦してみて下さいね。
−後書き−
後、少しで話は完結です。果たして基地でレイドを待っているものは何なのか・・・。
え〜今回も反省点目白押しです。
できれば、読んだ感想をお聞かせ下さると幸いです。気に入らない点や面白かった点何でも良いので是非お聞かせ下さい。
感想お待ちしております。
最後に、タングラムさん。毎回掲載して頂き、ありがとうございます。
管理人より
バーニィさんより第5話をご投稿頂きました!
正義………。これは定義がかなり曖昧ですからね。信念には遙かに劣りますね。
というわけで最近登場の多いロイナーデ小隊登場の巻でした(笑)
遂に最終話付近に……次回も楽しみにしてます♪
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