機甲兵団Jフェニックス 〜ある一人の男の物語〜
第四章 脱走
−ヴァリム国内 サーリットン戦線最前線基地−
先日のアルサレアの大攻勢により大きく戦線の後退を余儀なくされたヴァリム軍は後方の基地で戦力の立て直しの途中であった。
後方の基地であったここも今ではアルサレアに押され最前線基地となっていた。
そんな慌ただしい基地の中にキサラギ姉妹の姿も見て取れる。
彼女たちは今しがたアルサレアの偵察部隊に対する警戒任務から帰ってきたばかりであった。
ユイが機体を固定させ下に降りるとマイが駆け寄ってきた。
「姉貴〜」
「どうしたの、マイ?」
「姉貴のドゥルガーがどこにあるかわかったってリックが言ってたぜ」
「そう、それは良かったわね」
ユイの設計した新型PFの試作機ドゥルガーは基地を放棄する前に後方に移されたのだが、最前線にいた兵士やPFなどが一斉に後方の基地に移ってきたのでそのゴタゴタでどこに移送されたかわからなくなっていたのである。
「にしても、前の戦いは良かったな〜、もう一度ああいう戦いをしたいな。偵察部隊じゃ手応えがなさ過ぎるよ」
「当然でしょ。コバルトリーダークラスが偵察任務なんかに出るわけないもの」
「でもよ〜もう少し骨のあるヤツがいても良いと思うんだけどな〜」
「マイは戦うのが好きね。私はあまり腕の立つ相手はいないで欲しいわね。その方が任務の成功率上がるもの」
なんとも対照的な二人である。
二人が話しながら格納庫から出て行こうとすると一人の男が走ってきて声を掛けてきた。
「キサラギ中尉に通信です」
走り寄って来たのはリックと言う整備員でユイが機体の整備を任せている男だ。
手にマイク付きのヘッドフォンを持っている。
「リック・・・どっちのキサラギ中尉?」
ユイもマイも階級は中尉なのだ。
ユイは静かに両手でそれぞれ自分とマイを指さしながらリックに聞き返した。
「ユイ=キサラギ中尉です」
「貸して」
ユイはヘッドフォンを受け取ると耳に当てる。
「こちらキサラギ中尉です。はい・・・了解・・・」
「姉貴、なんだった?」
「呼び出しよ、ちょっと行って来るから、ここで待っていて」
「ん、わかった」
ユイはマイを残しその場を後にした。
マイはその場を去って仕事に戻ろうとしていたリックに声をかけた。
「なあ、リック、あたいの機体調子悪いんだけど見てくんない?」
「良いですよ」
リックが軽くドゥルガーの点検をしてみる。
「マイさん、これはもうダメですね・・・機体の外装も内装も寿命ですよ」
「まじかよ、もう寿命なのか?」
マイのPFは新しく機体を組み直してからまだ半年もたっていない。
通常PFは普通に使っていればそんなに早く寿命が来る事はない。
マイの荒っぽい操縦と常に激戦区で機体性能を限界ぎりぎりまで引き出して使っているせいで早くも寿命が来てしまったのだ。
「はぁ〜・・・まったく同じ機体組めるか?」
「ちょっと無理ですね・・・今この基地にあるパ−ツはヌエぐらいなものですから、ヌエは数だけは出回っていますからね」
「ヌエだけかよ!」
マイは叫ばずにはいられなかった。
よりによってザコパンツァーと名高いヌエである。
シンザンタイプとヌエの性能を比べてしまうと雲泥の差がある。
「なんで、最前線のくせにヌエしかないんだよ」
「最前線だからですよ・・・」
前回のアルサレアとの戦闘においてヴァリムはかなりのPFを失い、挙げ句の果てにそれらを補うために後方に余っていた機体は全て使われてしまっているのだ。
全世界に向けて大規模な侵略を行っているヴァリムである。
アルサレアだけがヴァリムの敵では無いのだ。ミラムーンや他諸外国も相手である。
その為に戦線が拡大してPFの絶対数が不足しているのがヴァリムの実状であった。
「マイさんのイシュタルの辛うじて生きているパーツとヌエのパーツを組み合わせて何とかしますよ。それで勘弁して下さい」
「頼むぜ、リック・・・まあ、期待しないで待ってるよ。ヌエだからな・・・」
一方、ユイは・・・
ユイが部屋にはいると一人の男が立っていた。
その頬は痩け顔色は青白く、いかにも病的な顔をしていた。
「はじめまして、ユイ=キサラギ中尉、諜報部所属のルロイ=レオミル中尉です」
「はじめまして・・・それで用件は?」
ルロイの挨拶に素っ気なく答えるユイ。
ルロイの声は以外としっかりしており、察するに顔とは関係なく健康な様だ。
「神佐からの私の任務への協力要請書です。これを渡しに来ました」
「そう・・・具体的にはどうすれば良いのかしら?」
「まだ、調査の段階なので、中尉の力が必要になったらお呼びしますのでこの基地にいて下さい」
「わかったわ・・・・PFの強奪任務?」
ルロイから手渡された紙にざっと目を通して尋ねてみる。
「そうです。強奪任務です」
「諜報部が強奪任務をね・・・まあ、良いわ。そちらの準備が出来たら声を掛けて」
「わかりました。その時はよろしくお願いします」
−アルサレア軍サーリットン戦線 後方基地−
レイドは暇だった。
PF訓練期間を終え他の兵士達はミオも含め別の基地へと移動。
後方のこの基地は主に補給路の確保や補給物資の護衛任務に当たっていたものの、それは普通の兵士の話でありレイドは違っていた。
レイドはエルンを搭載したJフェニックスの専属パイロット。
しかも、このエルンの存在はアルアサレア軍内でも一部の者しか知らず、知られるのも困る代物だった。
その為、チャップはエルンの存在を隠すためにほとんど任務を与えないのだ。
彼に与えられるのは基地周辺の巡回任務だけ、後方基地の周辺である。
敵の影など殆どあるわけがなかった。
レイドは巡回任務に当たっていた。
(暇だ・・・・暇すぎる・・・さっさとエルンで逃亡しようかな・・でも行く当てもないし・・・)
「エルン、博士の居所は掴んだのか?」
『否定、現在も検索中です。ヴァリム国内のデータベースを隈無く調べましたが、具体的な所在は不明。おそらく、高レベルのセキュリティーを要した施設にいるものと思われます』
レイドはエルンの機能を活かして脱出の鍵を手には入れていたが、その後どうするのかとエルンに聞かれてどこにも行くところがない事に気が付き、エルンの提案に従ってエルンを作った博士のところへ行く事にしたのだが・・・博士の所在地は不明であった。
「ミオさんはどうしてるかな・・・」
レイドは胸のポケットから一枚の写真を取り出し手に取ってみる。
ミオの写真だこの間無理を言って一枚もらったのだ。
『前方の補給ルート周辺に敵影補足、機数3。敵機もこちらにを補足したようです。迎撃を推奨します』
「当然だろ、お前は最低限のサポートで良いからな」
珍しく敵がいた。
この任務について数日、初めて敵に遭遇。
そして、レイドはエルンに全面的に操縦を任せて死にそうになった事を思い出してそう言った。
せっかく受けたPF操縦訓練を試したいという気持ちも少しはあったが、彼の中で戦いそのものに少しずつ喜びを感じてきている事に彼はまだ気が付いていない。
『敵機をモニターで捉えました。ロキデザートです』
ロキデザートはここら辺の砂漠地帯ではよく見かける機体だが、なかなか出来が良く侮れない機体だ。
「攻撃開始だ・・・」
レイドはJフェニックス大きく飛翔させロキデザートとの距離を縮めようとする。
三機のロキデザートは距離を見て対PFミサイルを一斉に発射する。
だが、対PFミサイルが軌道修正を開始するよりも早くその脇をレイドの操縦するJフェックスが通過する。
対PFミサイル高い追尾性を持っているが発射後の軌道修正を開始するまで他のミサイルよりも若干の時間がありそれが欠点であった。
その欠点を突いて上手く距離を詰めたのだ。
もっとも、レイドはこの事を知らず実はエルンがブースト速度を調整して上手くサポートしていたのだ。
「遅い、遅い」
レイドはエルンのサポートの事も知らずにいい気なものだ。
『マシンガンによる、射撃戦を提案します』
「却下、接近戦を試す」
レイドはさらに機体を接近させカタールで攻撃を仕掛けようとする。
戦闘の経験の少ない者が接近戦の得意なロキデザートに接近戦・・・これは無謀以外の何者でもないのだがレイドは己の本能に従って接近戦に挑んだ。
手近なロキデザートに近づいてカタールを横に払う。
この攻撃はあっさり避けられるはずだったのだが、ロキデザートのヘッドフレームが斬り飛ばされた。
「よっしゃ」
これにはヘッドフレームを飛ばされたロキデザートのパイロットも驚いた事だろう。
ロキデザートのパイロットはしっかり避けていたのだ。
当たらないはずの攻撃が命中、これもエルンのおかげである。
エルンはカタールの的はずれの軌道を修正し途中で曲げたのだ。
これでは普通に避けたのではまず回避する事は出来ない。
ヘッドフレームを失いメインフレームのサブカメラだけになっていまいながらもこのロキデザートは器用に距離をとろうとする。
レイドが追撃を仕掛けようとするが他の二機のロキデザートが割ってはいる。
レイドがこのうち一機に向かってカタールを振るうと命中見事にレッグフレームとメインフレームを切り離した。
もちろんこれもエルンのサポートがあってこそのものである。
『距離を取りマシンガンでの交戦を提案します』
「わかった、そうするよ」
接近戦の手応えに満足したのかレイドは射撃戦に移行する。
と言ってもエルンが対PFミサイルの誘導が始まる前の距離で尚かつスパークフックの届かない距離を保つ様にサポートしながらの一方的な射撃戦であった。
「よし、全機撃破! 気分の良いもんだな」
初めてのPFを自分で操縦しての戦闘での勝利にレイドは酔いしれていた。
『敵の反応は消えました。基地に連絡して脱出ポッドで脱出した敵兵を捕らえては如何でしょうか?』
「そうだな、そうするか。基地に連絡を繋いでくれ」
『了解しました。どうぞ』
「レッドイーグルより基地司令部へ、敵一個小隊と遭遇これを撃破した。敵兵の移送をするので輸送機を一機送られたし」
『基地司令部了解。4分もあれば輸送機は到着する』
「レッドイーグル了解」
レッドイーグルとはレイドのこの単独任務時のコードネームである。
この後、脱出ポッドの着地地点に行き合計三人のヴァリムの兵士を捕虜にした。
彼らとて生身でPFに挑むほど命を軽んじていないので何の抵抗もなくあっさりと投降した。
−ヴァリム国内 某所−
その部屋には一人の女性と初老の男が一人向かい合って座っていた。
「それで博士、エルンの追跡装置は完成したの?」
「ああ、完成したよ、フォルセアさん。あんたの部下のルロイとか言う男に渡しておいた」
「そう、ご苦労様・・・・それでエルンはただの戦闘プログラムなの?」
「そう、ただの戦闘プログラムだ」
「本当に?」
「あんたもしつこいな・・・・フォルセアさん、あんたにゃ隠し事はせんよ。どうせ無駄だからな・・・それよりもどうしてそんなに最先端技術をあんたは欲するのかね?」
「あなたが、知る必要もないでしょ」
「それもそうだがな・・・私は研究させ出来ればそれで良い。ヴァリムの方が研究費が良いからミラムーンとアルサレアを裏切って来たんだからな。だが、エルンがなければ研究は進まないぞ・・・」
「わかってるわよ。だからエルンを手に入れようとしているのでしょ」
「ああ、それと私の所在地をダミーかなんかでもいいから明かしておいてくれたか?」
「言われた通りそれもしておいたわよ。エルンが自分で来るというの?」
「いや、パイロットが私を必要としてくるのさ」
フォルセアと、エルンの生みの親ハロルド=エイカー博士、この二人は利害の一致から今は手を組んでいた。
−アルサレア国内 サーリットン戦線後方基地−
「あ〜疲れた」
巡回任務から帰ると自室に戻りベットに直行した。
(ふぅ〜そろそろ逃げ出さないとな・・・何されるかわからないもんな・・・・明日にでもエ・・・ルンに・・・言っ・・・・・・て)
レイドは考えを巡らしているうちにいつの間にか眠りについていた。
だが、レイドの深い眠りは耳の奥の音で中断された。
『レイド様、レイド様・・・・』
(エルンか・・・人が寝てるのに起こすなよ・・・)
『博士の所在地が判明いたしました』
(博士・・・・誰だそりゃ?)
レイドはかなり寝ぼけていた。
『ハロルド=エイカー博士です』
(ハロルド・・・エイカー?・・・・ああ、博士か、居所がわかったのか!)
そう頭の中で喋りながらレイドはベッドから飛び起きる。
『肯定、博士が見つかりました』
(よしよし、良いぞ。それで?・・・どこにいた?)
『ヴァリム国内の研究所です。ここからですと2日ほどかかります』
(二日か・・・ちょっとかかるな、ヨズマから薬を調達しないとな・・・)
『今すぐ計画を実行する事を推奨します』
(今すぐ?・・・エルン・・・お前どうしたんだ?・・・今は真夜中だろ?)
レイドは時計を見たが時間は午前0時を示していた。
(お前にしては珍しく焦ってるな・・・そんなに博士に会いたいか?)
『否定、私の判断でそれが一番良いと判断したから薦めただけです。博士に会いたいからではありません』
(本当にそうか?)
『私には人間の様な感情はありません』
(まあ、そう言うなら良いけどな・・・とにかく実行は明日だ)
『了解。逃走ルートを計算しておきますか?』
(ああ、頼む)
『了解』
次の日、朝六時。レイドは目覚めベッドから起きるとまずは銃の確認をした。
レイドは今まで人に向かって銃など撃った事もなければ向けた事もない。
射撃訓練は受けたが人を撃つのと的を撃つのでは偉い違いだ。
だが、レイドは必要とあれば使うつもりでいた。
(それでエルン準備は?)
『万全です。チャップのクーデター計画は昨日のうちに作戦本部や周辺の基地に匿名で送っておきましたし、逃亡の際のカモフラージュ用に偽のクーデター実行計画も添えておきました』
(用意が良いな、基地のシステムの制圧は?)
『完璧です。後は、私の流す偽の敵襲に紛れてレイド様が薬の入手に成功すれば問題はありません』
(心配事は俺だけかい?)
『私が失敗する事は99%ありません』
(言ってくれるね・・・まあ、良い)
『開始時間はどう致しますか?』
(ああ、早速始めよう。基地のみんなには朝から忙しく動いてもらおうか・・・)
『了解』
基地の中は早朝という事もあって静寂そのものであった。
むろん軍事基地であるから夜間でも働いている者はいるが人数は昼に比べれば圧倒的に少なく、殆どの者はまだ眠りについている時間だ。
そんな静寂を破り危険を知らせる警告音が基地中に響き渡った。
『基地の全職員へ、敵PFの接近を感知。距離5000各員迎撃体勢を取れ、PFパイロットはコックピットないで指示があるまで待機』
基地内が先ほどまでの静けさとはうって変わって慌ただしくなる。
寝ていた人々があわてて起きあがり持ち場へと走って行く、中には寝ぼけてパジャマのまま走って行くものもいた。
この館内放送はもちろんエルンが流したものだ。
声は通信室の声をあらかじめ録音しておいたのでそれを編集して流したのだ。
通信室にはもちろん人がいたが、その人達はドアを電子ロックで閉めると部屋は完全に密閉されるので、二酸化炭素系の消火剤で二酸化炭素中毒を起こさせ気絶させておいた。
これもエルンのやった事でレイドは知らない。
さらに、基地指令のチャップは自室へと閉じこめておいた。
他の基地の人間達も各所定部署に着いたと同時にエルンが全員閉じこめる。
『レイド様、準備が完了しました。行動開始して下さい』
(了解)
レイドが廊下に出ると廊下は再び静かになっていた。
まるで無人の基地の様に静かで不気味な感じがする。
不気味に感じるのは緊張しているせいであろうか・・・
レイドは決められたルートをエルンの指示に従いながら進んで行く。
(まったく、エルンは便利な奴だな)
『物は便利でなければ存在価値などありません』
(言い切るところが凄いな・・・)
『理解不能』
などと会話をしている内に医務室の前へとやって来た。
『室内には人間が一人います』
(ヨズマか?)
『肯定、その通りです』
(何でいるんだかな・・)
『徹夜で仕事をしていたようです』
(ご苦労な事で・・・開けてくれ)
『了解、ドアを入って二時の方向にいます。3秒後にドアを開けます・・・3』
レイドは銃を取り出しいつでも撃てる様に準備する。
『2』
廊下が静かすぎて耳鳴りが聞こえた様な気がした。
『1』
いよいよだ。
『0』
ドアが開くと同時に部屋に駆け込み二時の方向にいた人影に向かって銃を向ける
「動くな!」
何かの作業をしていた手を止めてこちらをゆっくり振り返る。
顔を見るとやはりヨズマだった。
「レイド君、これは何の真似だ?」
「両手を上に上げろ!」
ヨズマは銃口を向けられていながらもいたって冷静の様に見えた。
だが、そう見せかけているだけかも知れない。
「両手を上に上げたままその椅子に座れ」
「・・・・」
黙って指示に従い、ヨズマは椅子に座った。
「人に銃を向けて君に撃てるのかい、レイド君?」
「俺の手が震えている様に見えるか?」
「見えないね・・・・私のおかげかな・・・」
「そう、あんた、おかげさ。催眠だか暗示だか知らないが、こう言う時は便利だな」
「よく、知ってるね。誰が教えたのかな・・他にも君は自分にされた事を知っているのかい?」
「ああ、良く知ってるよ」
「ところで良いのか・・・薬はどうするんだ?」
「もらって脱出さ・・・在庫は全てもらっていく、そこの薬棚の裏にある金庫の中だろ。確か十日分ぐらい残ってるんだよな」
「驚いたね。そこまで知ってるのか・・・どうやって知ったんだ?」
ヨズマはこの事態まったく動じず、レイドが知らないはずの事をどうやって知ったのかそのことに興味がある様だ。
「ふむ・・ところでこれも知ってるかね。君に遺伝子療法を施したんだが・・・」
「殺人者傾向の遺伝子・・・好戦的な遺伝子・・・とかだったかな?」
「そうだよ。凄いな」
「俺には幸運の女神が付いているみたいだからな」
「それは羨ましいな・・・ところで今の君の顔・・・どんな顔か知ってるか?」
「どんな顔だ?」
「笑ってるよ」
レイドは椅子に座っていたヨズマの眉間に照準を合わせていた銃の引き金を何のためらいもなく引いた。
銃弾はヨズマの頭を貫通し壁にめり込んだ。
ヨズマの体は糸の切れたマリオネットの様に力が抜け椅子の上からずり落ち床に倒れた。
弾の作った傷口から血が溢れ出て床を赤く染め上げ高級な絨毯の様に赤い綺麗な色がそこにあった。
「そう・・・正直、信じたくはなかったよ。ためらいもなく人を殺せるとはな・・・だが、俺は人を殺せた。案外と人を殺すのは簡単なんだな、俺はこうなりたくて代わりにこいつを殺したのか・・・・それとも、本当にただ殺したかったのか・・・・わからないな・・・・・わから・・ない・・・よ」
レイドの目からは涙が溢れ出て彼は一人、理由もわからず震えていた。
−アルサレア国内 某渓谷−
レイドが行動を実行していたその頃、アルサレア国内のとあるところにあるこの渓谷にピンクのJフェニックスの姿があった。
言わずともわかるであろうがLIPS小隊の四人娘だ。
二機のピンクのJフェニックスに乗り谷底を歩いている。
あれから、プリスとイズミはPFの操縦を覚えた事もあり、それぞれが単独でピンクフェニックスに乗っていたのだがイマイチ調子が出ないと言うことで、彼女たちの後見人、参謀本部長ツェレンコフ=ゴルビーに無理を言って複座型のJフェニックスを手に入れ乗っているのであった。
『ねえ、セリナ本当にお兄ちゃんがここに来る様に言ってたの〜?』
と、イズミの声がプリスと一緒に乗っているセリナに聞こえてきた。
「ああ、間違いない。正確に言うと直接言われたのではなくメールだがな」
「でも、いないね〜」
『だいたい、あの方がこんな所に私達を呼び出す事自体が変じゃない?』
リサの声も聞こえてきた。
「では、お前達二人は留守番していれば良かっただろう」
『やだ、やだ、本当にお兄ちゃんが来たら会いたいもん』
そもそも、彼女たちが何故こんな所にいるかと言うと彼女たちにグレンリーダーからの謎のメールが送られてきたのだ。
果たして、あのグレンリーダーが彼女たちにメールを送るのだろうか・・・・
当然そのメールは偽物である。
実はエルンが言っていた「偽のクーデター実行計画」の集合ポイントがこのエリアなのだ。
つまりだ、エルンはグレンリーダーと名の付く物には怪しい物でも何でも飛びつくLIPS小隊の習性を利用したわけだ。
「セリナ〜あのメールやっぱ嘘じゃないの? 嘘だったら1億ギャラ払う約束だよね」
「う・・・嘘なわけがないだろ・・・た、多分な」
セリナが喋り終わると同時にそれは起こった。
彼女たちのレーダーに上空からの落下する物体が映った。
『セリナ、何か来たよ、お兄ちゃんかな?』
「これだけの数だぞ、たぶん違うだろ」
そう言いながらピンクフェニックスを上に向かせてモニターで飛来物を確認するとそれはPFであった。
しかもアルサレアのPFだ。
『そこの反逆者ども!! そこを動くな!!!』
「いきなり現れて反逆者とは何よ! 失礼ね、罰金物だよ!!」
怒るプリスを無視して相手は話し続ける。
『貴様らのクーデター計画はわかっている。直ちに武装解除して投降せよ』
LIPSの面々は混乱した。
『ちょっと、何言ってるの! 私達はお兄ちゃんに会いに生きただけだよ!!』
『お兄ちゃんなど知らん! 武装解除せよ』
向こうは武装解除の一点張りだ。
しかも気が付けば周囲は二十機以上のPFに囲まれている。
「みんな、ここはおとなしく投降するんだ。何か勘違いをしているに違いない」
「え〜プリス、こんな失礼な人達に投降するのやだぁ〜」
『私はセリナに賛成です。戦ったらJフェニックスが傷ついてしまいます』
『お兄ちゃんに会えないのはやだな〜白馬に乗って助けに来てくれないかな・・・』
「よし、みんな武装解除するんだ」
勝手な事を言っているが・・・何故か話がまとまった様だ。
この後、捕縛されたLIPSは根掘り葉掘りと聞かれたが何とか誤解をといて釈放された様である。
−アルサレア国内 サーリットン戦線後方基地−
レイドはエルンの置いてある格納庫に向かって走っていた。
(エルン、薬は手に入れた)
『了解、基地内の人間も怪しんできています。お急ぎ下さい』
(流石に、鈍い人間でも気が付くか・・・)
レイドは格納庫へと急いだ。
彼が格納庫に付くと整備員達はいつでも作業が出来る様に待機してパイロット達はPFのコックピットで待機している様だ。
放送があってから十数分。
未だに待機しているのだから立派なものだ。
(エルン、ハッチオープン)
『了解』
レイドは素早く乗り込むと機体を歩かせ格納庫の出口へと向かって歩き出す。
下の方で整備員が何らやわめいている。
まだ、出撃命令が出てないとでも言ってるのだろう。
(邪魔だな、踏んじまうぞ・・・いっそ踏むか?)
『踏みますか?』
「冗談だよ・・・」
『了解』
レイドは冗談と言いつつも半分本気の自分が怖くなった。
「さっさとここを離れよう」
『了解』
「これで良いんだ・・・・」
『おっしゃる意味が良くわかりません』
「独り言だ・・・気にするな」
『了解』
レイドは暗雲立ちこめる空へと向かってJフェニックスを飛ばした。
−アルサレア参謀本部長執務室−
次の日、参謀本部長ツェレンコフ=ゴルビーの執務室にツェレンコフとグレンリーダーの姿があった。
「将軍職は慣れたかね?」
「こればっかりは俺には向いてないみたいで何時までも慣れませんよ」
「そうか、いずれ慣れるだろ」
「ええ、それより今日は何の用です?」
「それなんだがな・・・・厄介な事態が起きた」
「厄介な事態?」
「事態そのものはもう収まったんだが・・・納得いかない点が多すぎる」
「クーデター計画の一見ですか?」
「ああ、そうだ・・・あの計画そのものは本当だったのだが」
「クーデターの実行計画の方はデマだった」
「それにだ、首謀者のチャップ=モンデルのいた基地のデータベースに誰か侵入した上に犯人を断定できる痕跡を残さずに綺麗さっぱりと消えた。しかも、ご丁寧に基地の全データを消去してだ。我が軍のセキュリティーはそんなに低いか?」
「低くないと思いたいですが、侵入者がよほどの技術の持ち主だったのでしょう。確かあの基地は・・・・踏み込み調査する日に一人逃亡兵がいましたよね」
「ああ、一人いたな・・・だが、その男ではないだろう」
「ですが、共謀者がいたなら・・」
「可能だな。だが、行動が良くわからん」
「チャップに話を聞けばわかるでしょうね」
「そうだな・・すまなかったなこんな事で時間を取らせて」
「いあや、良いですよ。デスクワークに飽きていたところですから」
「そう言わずに、しっかり仕事してくれよ」
「ははは、ちゃんと仕事はしますよ」
−ヴァリム国内 サーリットン戦線最前線基地−
ここはPF格納庫、ユイはリックがマイに新しい機体を作ったというのでマイと一緒に見に来ていた。
「なんだよこれぇ〜」
マイの叫び声が格納庫内に響き渡った。
「リック、まともなの作れって言っただろ!」
マイが隣にいたリックの襟首を掴み激しく上下に揺する。
「マ、ママママ、マイさん。勘弁して下さいよ。倉庫にまともなパーツがないと言ったでしょう」
「マイ、リックに当たってもしょうがないでしょ」
ユイが止めた。
マイの機体になる予定の機体。
性能は侮れないものになっているが・・・マイは見た目が嫌な様である。
「マイ、見た目で機体の性能が決まるわけではないのよ。これも立派な機体だわ」
「そう言う事じゃねえよ。見た目がアレだぜアレ」
「まあ、まあ、マイさん。ユイさんの言う通り見た目と性能は大違いですから」
説明しよう。マイの言う見た目とは・・・・まず足元から、目に付くのがどう見てもPFに似つかわしくないミルクレッグ。メイン、アームフレームは何故かヌエ、そして、ヘッドフレームはまたまた兎耳が特徴的なミルク。
「ミルクは良いパーツよ。見た目とは想像もつかないほどのスペックを秘めているわ」
「え〜、絶対に嫌だ、やだやだやだやだやだやだぁ〜」
「マイ、わがままは良くないわ」
激しく拒否するマイにユイが言う。
「見た目よりも性能が良い方が良いでしょ、マイ?」
「そりゃそうだけどよ」
「マイさん、ミルクパーツは倉庫の中にある中で一番性能が良いんですよ・・・まあ、ほこりを被っていたのは事実ですけど・・・」
「あたりまえだ。こんなパーツ使う奴がいるか!!」
「ここにいるじゃない」
「だから、あたしは乗らね〜って!」
「じゃあ、ドゥルガーを一人で動かす?」
「・・・それもやだ。あんな操作の面倒な機体はゴメンだ。姉貴がドゥルガーに乗って姉貴のフォーチュンを貸してくれよ」
「ダメよ。ドゥルガーが嫌ならこれに乗りなさい」
「じゃあ、俺は他の機体の整備がありますんで・・・」
リックはこっそりと逃げ出した。
「あ、待ちやがれ!」
リックを追い掛けていこうとしたマイの後ろ襟をユイが掴んだ。
「ぐえぇっ」
「あなたはこれに乗りなさい。じゃあ・・・」
「酷いぜ、姉貴・・・・」
マイはがっくりと肩を落とし自分の機体を見上げていた。
「はぁ〜これからはこれで戦うのか・・・・」
マイが下から見上げると、ミルクヘッドの異常に大きな目が不気味に見えた。
−後書き−
不幸は続くよーどこまでも〜♪ 何とか、脱走に成功したレイド君だが彼の不幸はこれで終わりではなかった・・・・
後書きです。毎回、毎回書く度に自分の実力のなさがしみるのですが今回は特に感じてしまいました。やっぱ文才無いんですな〜、しかぁ〜し私は書き続けるぞ〜。
ああ、変な後書きだこれでは後書きとは言えない・・・
この話は今しばらく続きます。あと1、2回でひとまず終わる予定ですので今しばらくのお付き合いよろしくお願いします。
管理人より
バーニィさんから第4話をご投稿いただきました!!
さて、不幸なレイド君は無事脱走できたようですが、これからどうなるやら・・・
人間臭いエルンも面白かったです!
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