機甲兵団Jフェニックス 〜ある一人の男の物語〜

第三章 PF操縦訓練








 

 私の名前はエルン・・・・私の生みの親はハロルド=エイカー博士。

 私は博士によって生み出されより人間に近い思考体系を持った人工知能。

 私は自分が何のために生まれたのか知りません。

 気が付いたら一人の男がコックピットに座っていました。

 名前はレイド=グットハント、私の専属パイロットとして登録した人です。

 博士の命令で私は色々な任務に付くはずでしたが・・・・私が起動開始したにもかかわらず未だに博士とは出会っていません。

 仕方がないのでパイロット方の言う通りに動いています。

 私は自分の身の安全を守る以外は博士やレイド様の命令で動くようにプログラムされています・・・・この思考はノイズでしょうか?・・・・私は与えられた命令以外考える事はないはずなのに・・・・・これは夢・・・・人間の言うところの夢なのでしょうか?・・私は機械・・・ただのプログラム・・・人ではない・・・動物ではない・・・生物ではない・・・私はただの物・・・私は・・・私は・・・私は・・・・









 

 けたたましい目覚ましの電子音で目が覚めた。

 深い眠りを無粋な目覚ましで起こされるのは嫌な物だが、何時までもその嫌な音を聞かされ続けるのはもっと嫌な事だ。

 ゆっくりと手を伸ばし二度三度と何もないところを空振りしようやく耳障りなスイッチを切る事が出来た。

 上体をベッドから起こしあくびを一つ

「夢か・・・・変な夢だったな」


 つい先日、人権を奪われた不幸な男レイド=グットハントだ。

 彼は昨日からPFの実習訓練を受けている。

 PFはかなりの安全性と誰でも簡単に操縦できるコンセプトで作られており簡単に操縦を覚えられるのが特徴だ。

 そのおかげでアルサレア軍隊内には年齢の低い子供や戦闘には向かない女性が数多くいる。

 実際、男よりも数多くの戦果を上げている女性も多くエースパイロットと呼ばれる人々の中には女性も多い。

 だが、誰でも操縦を覚えられるため犯罪にPFが使われる事が多くなっているのも事実である。

 ヴァリムとの戦闘が少ない後方の基地では犯罪者を相手にする事もしばしば多くなってきていた。


 レイドはベッドからでて着替えると頭にバンダナを巻いた。

 こめかみに変な装置を埋め込まれているのでそれが人目に付くのが嫌なのだ。

 朝のレイドの日課は決まっていた。

 まずは医務室へ行きレイドの嫌いな男その一、ヨズマ=ケーピーに会い薬をもらうのだ。
 このもらう薬は今まで三回もらいに来ているが三度とも一つのカプセルを除き違うものを渡されていた。

「ヨズマさん、来たぜ」

「ご苦労レイド君。これが今日の薬だ」

 こういう会話はいたって事務的に交わされる。

 この後、朝食を取り再びヨズマの元を訪れる。

 今度は何だか良くわからない計測器を付けられ何かを測定されるのだ。

 これは決して気分の良いものではない。

 それからたまに謎の薬を投与されたりする。

 たまに目が霞んだり吐き気を感じたりとバラエティに富んだ不快な副作用がつきまとう。

 これで午前中が終わる。


 今度は昼食だ。

 薬のせいで食欲がない時もあったがレイドはなるべく摂るように心がけている。


 午後からはいよいよPFの操縦訓練だ。

 レイドは他の見習いパイロット達に混じって操縦の訓練を受けている。

 見習いパイロットの中にレイドは一目惚れしたミオ=ポーティミングの姿を見つけて、少しは彼にとってやりがいのある事が彼の日常において唯一の救いになっていた。

 そうでもなければ研究用のモルモットなどやっていられるものではない。



 見習いパイロットに混じってミオ以外にレイドの見た事のある顔もあった。

 レイドは名前も覚えていなかったがこの基地にエルンの動かすPFに乗って一緒に来た騒がしくとっても変な四人組の女の子の内の二人だ。

 赤い髪の毛の背の低い子供と青い髪の毛の縦ロール少女、プリス=ピーピアスとイズミ=ウッドビレッジである。

 何故この二人がここに紛れ込んでいるかというともちろんPFの操縦を習うためである。
 彼女たちの機体は特注品の複座型Jフェニックスでそれぞれの機体搭乗時の相棒はセリナ=バーミントとリサ=イワサキ。この二人に操縦を任せてプリスとイズミは呑気に椅子に座っているだけだったのであった。

 しかし、ある出来事があってからプリスとイズミはPFの操縦をしっかり身につける事を心に決めたのだ。


 愛しのグレンリーダー様のために!!


 ある出来事とはつい二日前の事だ。

 ヴァリム軍とアルサレア軍が激しい基地の攻防戦を行っている時の事である。

 戦場にグレンリーダーがいるとの情報を得たLIPS小隊は直ぐに駆けつけるべく格納庫へと走っていた。

「ねえ、セリナ」

「何だ?」

 後ろからイズミが先頭を走るセリナに声をかけた。

「私達の機体は壊れているんじゃないの?」

「安心しろ! 私とリサで整備員を締め上げてこんな時のために私達のJフェニックスを用意させておいた」

「そうなのリサちゃん?」

 話が聞こえたので今度は最後尾のプリスが一つ前を走るリサに聞く。

「うん、用意してくれてるはずだよ。セリナが怖〜い顔で脅してたから」

「怖い顔とは何だ! 怖い顔とは!!」

 先頭のセリナが今まで前を走っていた速度と変わらぬ速度で後ろ向きに走りながらリサに噂の怖い顔で怒鳴りつける。

 その顔を見てプリスが指さして一言。

「リサちゃん、あの顔?」

「そうあの顔だよ」

「きさまら〜!!」

 セリナの怒りの炎に油を注ぐ二人。

 その時、後ろ向きで走るセリナの背後に危機が迫っていた。

「セリナ〜そのまま走ると危ないよ。ほらっ後ろに掃除用具が・・・」

「ん! どわぁぁぁ」


 ドンガラガッシャ〜ン! カランカラン! 


 何故か廊下においてあった掃除用具一式に足を引っかけ派手に転ぶセリナ。

 もの凄い勢いでぶつかったセリナは偶然頭にバケツを被ったまま身動き一つしない。

 流石の3人も心配になっておそるおそる近寄っていく・・・

「大丈夫セリナ?」

「生きていますか?」

「痛そう〜」

 勝手気ままに声をかける。


 プリスが近づき指で突っついてみる。


 ツンツンッ! ガシィ!!


 プリスが突っついたとたんその足をセリナがもの凄い力で掴んだ。

 そして、不気味な低い声を発しながら静かに立ち上がる。

「プ〜リ〜ス〜」

「あわわわわわわ」

 プリスはバケツの下の目が一瞬光ったように見えた。

「バ・・・」

「バ・・・」

「「バケツお化けだぁ〜」」

 その恐ろしい姿を見てなのかその恐ろしいオーラを感じてなのかリサとイズミは声をそろえて同時に叫び声を上げると一目散に逃げていった。


「あああ〜、待ってよ」

 プリスは泣きそうになりながらも何とかセリナの手を振り解くと急いで二人の後を追って走り出した。

「むぁてぇ〜! 貴様ら〜!!」

 セリナがモップを手にしてどうやって前を見てるかと言う謎を残しつつバケツを頭に被ったまま3人の後を追い掛けはじめた。

 リサの後を追う形でやや遅れてイズミが走っている。

「イズミちゃん早く早く、あんなのに捕まったら仲間にされちゃうよ」

「リサ〜待って〜疲れたよ」

「モップお化けにされちゃうよ」

「それ、絶対に嫌!」

 モップお化けをどう想像したのか本人にしかわからないが相当怖かったらしく走る速度が急に増してイズミはリサを追い越し逃げていった。

「イズミちゃん、ずる〜い」

 今度はリサが追い掛ける番であった。

 基地の中を縦横無尽に逃げ回ったがイズミが一番最初に格納庫に到着した。

 一応目的地は忘れていなかったわけである。

 彼女は自分たちのピンクのJフェニックスを見つけると走る足を止め立ち止まり、首を傾げる。

「あれ〜何で四機あるんだろ?」

 そこへリサが駆け寄ってきた。

「何してるの、逃げなきゃ逃げなきゃ」

 その場で足踏みしながらイズミに声をかけるリサ。

 だが、イズミはまったく聞いていない。

「ねえ、リサ。私達のフェニックスが四機あるよ」

「そんなわけ・・・・」

 イズミの指さす先を見たリサは我が目を疑った。

「・・・あるね・・・・四機」

「うん、あるでしょ」

「何でだろうね?」

「何でだろう・・・・」

 彼女たち、LIPS小隊に配備されているPFは特別製Jフェニックスが二機。

 何が特別かというとコックピットが複座型なのだ。

 Jフェニックスに複座型の機体は存在せず彼女たちのピンクのJフェニックスは専用の特別仕様となっていた。

 そもそも何故複座型かと言えばプリス、イズミ両名の操縦技術が未熟なためなのだが、今でもそれは改善されていない。

 にもかかわらず四機のピンクJフェニックスが格納庫に威風堂々とならんでいた。

 ここでピンクのJフェニックスが彼女たち以外にも使い人がいるかも知れないのでは、と言う疑問も浮かんでくるがそれは殆どあり得ない。


 なぜならば、彼女たちLIPS小隊の使用しているピンクはアルサレア軍隊内では不吉な色、不幸を呼び込む色として恐れられ兵士達から敬遠されているからだ。


 そんなわけで、イズミとリサの目の前にあるJフェニックスは彼女たちLIPS小隊のPFに間違いないと断言でき、そのことを彼女たち自身も良くわかっていた。

「わあぁぁぁぁぁ〜どいて、どいて、どいて、どいて、どいて〜」

 リサとイズミが頭を悩ませているとプリスがもの凄い勢いで格納庫内に走り込んでいた。
 作業途中の整備員達がぶつかってはたまらないとプリスを避けて行く。

 以前にプリスとぶつかって法外な慰謝料を請求された整備員がいるのである。

 その噂を聞いている人々は蜘蛛の子を散らすように方々に散っていった。

「どこへ行ったぁぁぁ〜、プリス〜!!!!」

 バケツを被ったバケツお化けことセリナもモップを振り回しながらプリスの後を追って格納庫へ入ってきた。

 プリスの視界にリサとイズミが入った。

「二人ともどいて〜」

 リサ、イズミが後ろ振り返った時、すでにプリスが目の前に迫っていた。


 衝突・・・・


「きゃん」

「ぎゃふん」

「いでっ!」

 人間同士がぶつかったとは思えない様な激しい音を格納庫の内に響かせながら三人が地に倒れた。

 三人とも何故かかすり傷一つなかったがリサとイズミは仲良く並んで倒れ二人の上にプリスが倒れていた。

「ちょっと、プリス〜 何であなたは何時も真っ直ぐにしか走れないの?」

 イズミはプリスに無駄とは思いながらも聞いてみた。

 リサはメガネが割れていないか倒れたままの姿勢で手にとって調べていた。

「いや〜走り出すと速く走る事しか考えられなくて、スプリンターの才能でもあるのかな? めんちゃい、めんちゃい」

「そんな事は良いから、プリスちゃんどいてよ」

「わかった、わかった。今、退くよ」

 確認し終えたリサがプリスに言うとプリスは愛想良く返事をして二人の頭をポンポンと軽く叩いた。

 その時、彼女たちは背筋に寒い物を感じた。

 まだ倒れたままであった三人はゆっくりと後ろを振り返ると・・・


「「「セリナだぁ〜!!!」」」


 バケツの下に鬼の形相を隠しているであろうセリナが立っていた。

 三人はあわてて逃げようとするが地面に倒れたまま手足をジタバタさせるだけでなかなか逃げられない。

「覚悟〜」

 セリナがモップを大上段に構え大きく一歩踏み込む。

 だが、大きく踏み込んだ足の着地地点にあったのは・・・・バナナの皮!!


 何故こんなところにバナナの皮が? と言う疑問はこの際目を閉じて頂こう。


 とにかく、セリナは見事にバナナの上に力強く踏み込む。

 その力はお約束通り地面に伝わらずバナナの皮によって横方向の力へと変化する。

 そして・・・・彼女は宙を飛んだ。

「何が起こったんだぁ〜」

 セリナは突如訪れた浮遊感に叫び声を上げながらモップを手放し回転しながら地面に向かって真っ逆さまに落下して行く。

 地面に倒れたままジタバタしていた三人娘はこの光景に見とれていたが、セリナの空中での軌道を見てとって自分たちに向かって落ちてくる事に気が付き再びあわてだす。

「セリナが降ってくる〜」

「死んじゃう、死んじゃう、早く逃げないと」

「痛い! 髪を引っ張らないでよ」

 が、三人娘はお互いの足を引っ張り合いその場から動けずにいた。


 再び衝突・・・・

「ぎゅむぅ」

「げは」

「ひでぶ〜」

「ばたんきゅぅ〜」

 意味不明な悲鳴を上げ彼女たちはかなりの衝撃を体に受け動きを止めた。

 彼女たちの人生はここに終わったかに見えた。


「「「「かってに殺すなぁ〜」」」」


 突如謎の叫びを上げて起きあがるLIPS娘達。

「今、変な声が頭の中に聞こえたぞ」

 セリナが一言そう言うと。

「あたしも聞こえたよ」

「私も・・・」

「聞こえたよ・・・変な声が・・・」

 プリス、イズミ、リサが次々と同調する。

「そんな事よりセリナちゃん。あたし達の機体が四機もあるよ」

「そうだな・・・なんでだ。予備か・・・」

 プリスがそう言うとセリナが直ぐに答えた。

 セリナに先ほどまでの激しい怒りはもうない。


“細かい事にはこだわらない”


 LIPS娘の四人が仲良くやっていける秘訣の一つである。

 彼女たちが四機のピンクフェニックスにについて話し合っていると一人の整備員がおそるおそる近寄ってきた。

「あの〜セリナさん?」

「おお。あんたか」

 か細い声の整備員とは対照的に元気な声でセリナが答える。

「あれ誰?」

「例のセリナに脅された整備員だよ」

 セリナが怖い顔で脅したと言う整備員だ。

 彼はどこかセリナを恐ろしい凶暴な獣でも見るかのように少し怯えているようだ・・・よほど怖かったのだろう。

「言われた通り、セリナさん達のPFを用意しておきましたよ」

「それなんだが・・何で四機もあるんだ?」

「だって、セリナさん達四人ですよね。一人一機で合計四機・・・」

「何ってるんだ。複座型のJフェニックスを二機と言っただろう! 私達はこの二人がPFをまともに操縦できないから複座型を使っているんだ!!」

 セリナの怒りがまた爆発した。

 今日は良く火山が噴火する日だとプリスは楽しそうにその怒ったセリナの後ろ姿を眺めていたが、セリナがイズミとプリスを指さしてPFが操縦できないと言ったので少しムッと来た。

 だが、実際まともに操縦できないのだからしょうがない。

「セリナちゃん、そんな事言ったらかわいそうだよ。複座型のJフェニックスなんて普通は手に入らないんだから」

「そうですよ。Jフェニックスでさえ手に入れるのに苦労したんですからこれくらいで勘弁して下さいよ」

 リサがフォローしてくれたので怯えていた整備員は反撃に打って出た。

「黙れ! 言われた物を用意するのが整備員だろうが!! 複座型ぐらいなきゃ作ればいいだろ!!!」

 セリナがさらに猛攻をけしかける。

「セリナちゃんそれは流石に無理だよ・・・複座型はJフェニックスでは規格外なんだから・・・」

 と、リサが言う。

 流石は元整備員のリサ良くわかってらっしゃる。

 そもそも、複座型のPF自体が従来のPFの概念にないものなのであるし、普通一般的にでまわっている複座型はJファーの教習用の機体のみ。他は特注品でまれにでるくらいである。

 彼女たちのJフェニックスもメインフレームは複座型にするために特注で作られた代物でそれなりの設備の整った場所がなければ制作不能なのである。

「むき〜、リサは黙ってろ!」

 セリナが切れた。

 そして整備員も・・・・

「黙って聞いてりゃいい気になりやがって! いいか!! てめえらにゃわからねぇ話だろうがなぁ、PFはお前らの様なパイロットのためにある物じゃねぇんだよ!! 毎日戦場に出て行く兵士達の命をまもるものなんだ!! 俺たち整備員が整備したり、パーツを用意したりして初めてまともに動くもんなんだよ!! 複座型がなきゃ作れだぁ? 冗談じゃねぇ、俺たちには他のパイロットの命も預かってんだ。お前らのためだけに時間を割くわけにはいかないんだ。新品のJフェニックスを用意しただけでもありがたく思え!!」
「な・・・・」

 切れた整備員の演説に格納庫内から拍手がわき起こる。

 勢いに押されたセリナは言葉を失って黙ってしまった。

「ごめんね、整備員さん。セリナには良く言って聞かせるから許してあげて」

 リサがこのままでは不味いと思いセリナに変わって頭を下げる。

 リサがまだ何か言いたそうなセリナと何が起こったのかわからず事態に置いていかれてキョトンとしたイズミの襟首を掴むと引きずりながらPF格納庫から出て行った。

 プリスは整備員に一度頭を下げると小走りに三人の後を追って出て行った。



 彼女たちは自室に戻って来ていた。

 彼女たちのその表情は暗い。


「整備員さん達を敵に回してどうすんのよ。セリナ」

「すまん」

 今度はリサが苛ついていた。

 元整備員の彼女としては彼らの気持ちが良くわかるからだ。

 だが、リサは今やグレンリーダーのおっかけ部隊のLIPS小隊の一員である。

「本当に申し訳ない・・・今回ばかりは調子に乗りすぎた・・・」

「「「「はあぁ〜」」」」

 四人の口から同時にため息が漏れる。

 そして沈黙。

 どんよりした空気が室内に充満していた。

 何分たったであろうかリサが口を開いた。

「とにかく、プリスちゃんとイズミちゃんがPFの操縦覚える事は必要だよね」

「うん・・・プリス、一生懸命覚えるよ」

「あたしも覚える。お兄ちゃんに会うために頑張るもん」

「良しみんな、暗い気持ちの時はこれだぁ!」

 セリナが一枚のDVDディスクを取り出し天にかざす。

 これこそ彼女たちの元気の源、アルサレア軍プロパガンダDVD。

 このDVDにはグレンリーダーの出番が多く彼女たちのお気に入りの一品で気分を高揚させるために彼女たちはこれを見るのである。


 DVD視聴中・・・・


 10分後。


 彼女たちの胸に熱い物がこみ上げていた。

「みんな、いつもの行くぞ!」

「「「「せ〜の」」」」

「「「「グレンリーダー様〜」」」」

 今日も基地に彼女たちのグレンリーダーへの熱い思いがこもった言葉がこだまする。


 ・・・・しかし、その声が届いた事は未だにない・・・・








 

 そして現在に至る。

 見習パイロットはレイドも含め総勢三十人。

 時間になるとブリーフィングルームに集まってPF操縦訓練の担当教官が来るのを待つ。

 担当教官が部屋に入ってきた。

 担当教官の名はムラキ=オニキス。

 元コバルト小隊のメンバーでアルサレアのエースパイロットの一人だ。

 と言っても、Gエリア後は本人の希望もあって再び教官職に戻ったのである。

「よーし、全員そろってるか? 各班報告しろ」

「A班全員そろってます」

 そんな感じでA〜Eまでの各班の班長が報告する。

 レイドはC班でミオと一緒だ。

「では、全員格納庫に移動するぞ。付いてこい」

 ムラキが一通り今日の訓練内容を告げると格納庫に移動してPFに搭乗し訓練開始これが一連の流れだ。

「まずは、A班搭乗しろ」

 教習に使う機体はJファーで教習用のOSを積んである。

 とは言っても少しいじれば直ぐにでも実戦に使える機体でもある。

 教習用の機体は六機しかないので各班交替で教習は行われる。

 今週の教習内容はPFの歩行訓練と高さ幅などの感覚を掴む訓練が中心になっている。

 全工程二週間でPFの訓練を終える予定だ。

 誰でも簡単な訓練で乗れるのがうりのPFである。コツさえ掴めば車の運転を少し難しくした程度の操縦で簡単な戦闘を行う事が出来る。

「次はB班だ。搭乗しろ」

 A班が終わりB班の番だ。

 各班三十分間隔で交替するようになっている。

 この三十分の間けっこう暇なのだがムラキがしっかりと目を光らせているのでちょっとでもふざけ様ものなら怒鳴り声が直ぐに聞こえてくる。

 プリスとイズミは昨日からしょっちゅう怒られていた。

「ねえねえ、あのおじさん少し五月蠅いよね」

「そうだよね。ちょっとぐらいおしゃべりしても良いのにね」

 と、プリスとイズミが小声で話していると・・・

「また、お前らか!!」

 直ぐに怒られるわけである。

 流石はエースパイロット、耳も良いようだ。

「C班搭乗しろ」

 さていよいよレイドの番だ。

(やっと出番が来たか・・・)

 彼は色々な意味でそう思わずにはいられなかった。

 PFの搭乗は片膝を付いたJファーのコックピットから垂れている一本のワイヤーに足を掛けてそれを昇降機にして上るのだが、一歩間違えると5m近くもの高さから落ちる事になる。

 なので初めての場合は以外と勇気がいるものなのだ。

 昨日は1mの高さから落ちて怪我をした人もいた。

 だから、殆どの人はぎこちなくワイヤーに掴まって上っていく。

 これがけっこう外から眺めていると面白い光景に見えた。

 だがレイドにはさほど怖くもなかった。

 エルンの操縦するPFに比べればこれくらい何でもないのだ。


(今度はPFの起動だな)

 コックピットに乗り込んだ後、ハッチを閉めPFを起動させる。

 これはボタンを押すだけの簡単な行為だ。

 PFを立ち上がらせ順番に格納庫から出て行く。

 格納庫から出て直ぐの広場に線が引いてありそれを市街地の道などに見立てて今回は移動するのだ。

 と言っても隊列を組んでなら歩くだけの単純な作業だ。

『隊列は2、2、2で直進。100m進んだら左方向に向きを変えつつ3、2、1に組み替えろ』

 コックピットのスピーカーからムラキの指示が聞こえてくる。

 この指示通りに歩き回りながら線からはみ出さないように隊列を組み変える。

(はいはい、2、2、2から3、2、1、ね)

 レイドはこのマンネリな訓練が嫌だった。

 こんな事をしているくらいなら眠りたいのだ。

 なぜなら、レイドの嫌いな男その二。この基地の基地指令のチャップ=モンデルの指示で他の人に比べてPFに慣れていないと言う理由からシミュレーターを明け方までやらされていたからである。

 レイドにしてみれば自分の命を握っているチャップに逆らえないのは仕方がないことだが、人間としてチャップの道具のままで終わる気はなかった。

 と言っても今の彼には何の手だてもなく言う通りにするしか道はないのである。

 時折、通信機からミオの声が聞こえてくる時だけがレイドの退屈な時間の中で唯一充実する瞬間であった。


 三十分経過・・・

「よし、C班の訓練はここまで所定の位置にPFを移動させD班と交替しろ」

 PFから降りてD班と交替すると再び暇な見学の時間だ。

 D班にはプリスとイズミがいた。

 プリスがワイヤーの元に行き足をかけワイヤーを巻き上げ開始する。

 ところが上昇80cmの時点でプリスが落ちた。

「あいてっ」

 ワイヤーはそのまま無情にも全て巻き取られる。

 ワイヤーが無くなってプリス辺りを見回すと他のみんなは既に登り終わっている。

 どうしたらいいかわからずとりあえずその場でジャンプしてみるプリス。

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 皆が一斉に笑いだし、泣きそうな顔でムラキの方を振り返るプリス。

「PFの右足にあるワイヤーを降ろすボタンを押すんだ。」

 ムラキが助け船を出してくれた。

 小走りに言われた通りのボタンを押そうと右足に向かったが、一点を見つめたまま動きを止める。

 皆が声を潜めその姿を見守っていた。

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 再び泣きそうな顔でムラキを振り返る。

「どのボタンかわかりましぇ〜ん」

「一番左のボタンだ」

 ムラキが苦笑いしながら教えてやると再び笑いの渦が巻き起こった。

「お前らいい加減にしないか!!」

 ムラキが一喝。笑いは収まった。

 何とか格納庫からPFを出し広場を歩き始めたが問題が再び起こった。

「イズミ機。線からはみ出してるぞ。市街地だったらビルにぶつかっている。」

『すみません。すぐに直します』

 見学している人にもPF間の交信が聞こえるようにスピーカーが置いてある。

 そこからイズミの声が聞こえてきた。

 機体を線の中に戻そうとしたとイズミは勢い余ってレバー操作を誤り一歩大きく踏み出してしまった。

 そのため隣のプリス機に足を引っかけてしまう。

 プリスの機体はたちまちバランスを崩し倒れそうになったが無意識のPFの腕を動かしてイズミ機を掴んで一緒に倒れ込んだ。

 二機のPFが一つの轟音と共に地に倒れた。

 だが、轟音は一つでは収まらなかった。

 倒れた機体につまずき次々と倒れていく残り四機のPF達。

 そこにたちまちPFの山が築かれてしまった。

「みんな、無事か?」

『大丈夫で〜す』

 プリスの声がまず返ってきて続いて残り全員の返事が返ってきた。

 ムラキはほっと一息ついた。

 幾ら安全設計とはいえ10mの高さのPFが倒れた場合は中のパイロットにもそれ相応の衝撃が加えられるからだ。

「みんな動くなよ。そこで待っていろ」

 ムラキが別の格納庫から予備のPFを持ってきてPFの山を片付けるまで15分の時間を要した。

 この後、D班が説教されたのは言うまでもない。
















 

 そんなこんなで数日が過ぎ一通り基本訓練を終えるといよいよ実戦訓練に入る。

 その間レイドにとって日々はただ何となく過ぎて行くのみであった。

 実戦訓練はPFの数の都合上十人で行われる。

 三十人いた人数を三組に分けたわけだが今回はミオと一緒になれなかったのでレイドはやる気を無くしていた。

 元々はじめからやる気など無かったのだがミオが居たので少しはやりがいがあったのだが今は居ない。

 レイドはこの基地に来てからというものミオの前以外では無気力になっていた。

 ミオの前でつまり惚れた女の前で少しはやる気があるのだからまだ人間としての証が残っている証拠とも言えた。


「今日から実戦訓練を行う」

 みんなが集まっているブリーフィングルームが少々ざわめく、実戦訓練と聞いて気分が高まっているのだ。

 ここのいる人間はPFの操縦訓練をレイド以外は全員志願して来た人間だ。

 つまり、様々な理由で基本的にヴァリムと戦いたいから来たわけだがこの気分の高揚は少々違う大義名分やそんな物ではなく単純に人間の闘争本能と言うべき物であろうか・・・すべてがそうでは無いが人間は無意識に争いを好む傾向にあるようだ。

「今日は演習用のOSを積んだPFを使う。実際に弾こそでないが一応モニターには仮想の弾が映る。だから弾が当たった時の衝撃は無いが他はPFを実際に使うのだから実戦と殆ど変わりない」

 では格納庫に移動する。

 格納庫には両端に青いカラーリングのJファー五機、赤いカラーリングのJファー五機がそれぞれ並んでいた。

「今回は、いきなりだが五対五の実戦形式で行う。習うより慣れろという事だ。基本的には今まで教えてきた事と変わりはない。ちなみに武器はスマートガンだ。武器の撃ち方はシュミュレーターと変わりないから問題ない。チーム分けは・・・そうだな。そこからそこまでレッドチーム、そこからこっちはブルーチームだ。では全員搭乗しろ」

 ムラキが適当にチーム分けをすると全員に搭乗を命じた。

 ムラキも教官用の機体に乗り込みPFを起動させる。

(やれやれ・・・いまいちやる気になれないな)

 レイドもコックピットに乗り機体を起動させる。

『ブルーチーム、レッドチームの順番で俺の機体の後に付いてこい』

 格納庫から出て基地から少し離れた演習場まで移動する。

『よし、はじめる前にチームリーダーと機体のナンバーを決めないとな。各チーム、リーダーと機体のナンバーを話し合って決めてくれ』

 レイドはレッドチームである。

 彼のよく知らない誰かさんがリーダーを志願しそのまま決定した。

 機体ナンバーは5。

『決まったか? リーダーは俺の機体にデータを送ってくれ。送り方はわかるよな・・・・よし、始めるか。ルールを言っておくがリーダー機が撃墜されたら終わりだ。各PFは三回攻撃を受けたら行動不能になるという設定にしてある。PF同士の接触はなるべく避けてくれよ。壊れたら俺の給料に響くからな』

 リーダーが送り、ムラキが離れも戦闘訓練開始。

 五機のPFが正面から向かい合った状態から戦闘は開始された。

 今回の訓練は射撃のみ、近接攻撃は禁じられているのでまず全機が交替しフォーメーションとは呼ぶにはお粗末な陣形を組む。


(リーダーさんは自分が突っ込んで注意を引くから俺とレッド2で仕留めろと言ったが・・・そんな簡単にいくかね? 3、4は後方支援か・・・・後ろから撃たれなきゃ良いがね・・・)

 レイドが考えている間にレッドリーダーが動いた。

 作戦とは言えないお粗末な予定通り行動を開始した。

 動き出したからには動くしかないレイドも機体を遅れて追従させる。

 Jファーの動きはエルンのJフェニックスに比べて欠伸がでるほど遅く、苛立ったが意識を失う危険はないのでその点は安心できた。

 案の定レッドリーダーに集中攻撃が来る。

 しかも、回避の動きがぎこちない。

 このままあっさり終わるかと思えたが向こうの射撃も下手で意外と上手く立ち回っていた。

(WCSのカーソルに入れて、色が変わったらトリガーを引くっと・・・)

 レイドの目の前のモニターに自分が撃った仮想の弾が映し出され真っ直ぐに飛んでいく。

 これがたまたま命中。モニターの隅にHITの文字がでる。

 そのまま接近、敵の機体五機とこちらの三機が入り乱れた状態になり混戦。

 この混戦の中にあろう事か後方支援のレッド3、4が攻撃を仕掛けてきた。

 これはたまったものではない。

 攻撃は当たりやすいかも知れないがそれは敵も味方も含めての事だ。

『おい、レッド3、レッド4攻撃を止めてくれ』

 レッドリーダーの悲痛な叫びがヘッドフォンから聞こえてくる。

 そして、味方の誤射で撃墜された。

『そこまでだ。もう一度やるぞ』

 この後、3、4回繰り返すとその日の訓練は終わった。









 

 その日の夜。

 レイドはエルンが搭載されたJフェニックスの前に立っていた。

 眠れない夜にはここに来るのが彼の習慣となっていた。

 そして頭の中で会話を始める。

 エルンの声はレイドに埋め込まれた装置が鼓膜を振動させ直接聞こえてくる。

(エルン)

『なんでしょうかレイド様・・・・また同じ質問ですか?』

(いや、今日は違うよ。お前はどういう目的で作られたんだ?)

『わかりません・・・・』

(お前にもわからない事があるのか・・・)

『当然です。私のデータベースに無い事はわからない事に該当します』

(お前と話していると機械と喋っているような気がしないな・・・)

『私は一般的な機械やそれに搭載されているプログラムに比べ、あなた方人間に近く作られているようです』

(その曖昧な答えがその証拠だな・・・)

『肯定、その通りです』

(そう言うきっぱりしたところがプログラムらしいけどな)

『そうですか・・・・私にはわかりません』

(まあ・・・・俺も普通の人間よりも機械とかに近い扱いだがな・・・)

 レイドはそうエルンに告げると頭を掻きながら口から悔しさや虚しさから笑いがこぼれた。

『何がおかしいのですか?』

(お前からそんな質問するとはな・・・ますます機械離れしたヤツだ。お前を作ったヤツの顔が見てみたいな)

『私を創ったエイカー博士はどうやらヴァリム国内にいるようです』

 レイドはそう言えばチャップがそんな事を言っていたなと、と思いながら同時に一つの疑問が浮かんだ。

(エルン・・・なんで博士がヴァリムにいると知っているんだ?)

『私自信が私の任務を理解するためにも博士との接触が必要と思い。勝手ながら調べさせて頂きました。問題がありましたでしょうか?』

(調べるのは良いが・・・・どうやって調べた?)

『基地のデータベースに侵入して情報を集めさせて頂きました』


「なんだって!!」


 エルンの答えを聞いてレイドは叫んだ。

 データベースに潜入?

 ハッキングでもしたのか?

 そんな疑問が浮かんだが、一人でPFを見上げていた男が急に叫んだので整備員は不思議な目でこちらを見ていた。

 そしてその整備員はこう思ったであろう、この基地は変わり者が多いな、と。

『やはり問題がありましたでしょうか?』

(そんなんじゃない・・・コックピットに乗る。ハッチを開けてくれ)

『了解』

 エルンは指示通り、ハッチを開け乗り込むための昇降用のワイヤーを降ろす。

 レイドは素早くコックピットに座る。

(ハッチを閉めてくれ・・・)

『了解・・・・ハッチを閉じました』

「エルン、コックピット内での会話は盗聴とかされる事はないのか?」

『何もしないでも通常の会話でしたら接触回線での割り込みがない限り盗聴はされません。接触回線をOFFにして外との交信手段を一切絶ちますか?』

「ああ、頼む」

『了解』

 レイドはほんの少しの希望の光を見たような気がした。

 エルンが基地の情報にアクセスできるなら個人ファイルにまでアクセスできるかも知れない。

 チャップやヨズマのデータベースにアクセスして毒の解毒剤なり何なりを手に入れればあの二人の裏をかけるかも知れない。

 上手くすればこの立場から脱出できるのだ。


「エルン、基地のデータベースに侵入したと言ったな、どの位まで侵入可能だ」

『この基地のセキュリティーレベルでしたらどんな情報でも引き出せます。もちろんその痕跡は残す事は99.9%ありません』

「個人データも見れるのか?」

『肯定、その通りです』

「すごいな・・・まさかお前にそんな能力があるとはな、何で黙っていたんだ?」

『それは質問されなかったからです』

「・・・・他にどんな事が可能なんだ?」

『モニターに表示します・・・・・PFの操縦サポート、PFの無人操作及び戦闘行為、複数PFへの干渉によるコントロール奪取、各種コンピューターへのアクセス及びハッキング、収集したデータの高速処理、種々のプログラムの作成、etc・・・・』

「凄いな・・・良くこれだけをPFに積み込んだもんだ」

『これらの大半は私専用の衛星にデータがあります。必要に応じてダウンロードし使用しています』

「衛星・・・・衛星っていったのか?」

『肯定、衛星です』

「お前のバックアップのためにそんな物があるのか・・・大掛かりなヤツだな」

『大掛かりですか・・・その表現はわかりかねますが、従来のPFのOSに比べれば大規模なものである事は間違いありません』

「凄い・・・凄いぞ、お前がいれば何でも出来そうだ!」


 レイドは何時になく興奮していた。

 エルンを使えばどんな事でも可能なように思えてきたからだ。

 この境遇から脱するだけでなく他にも色々出来そうな気がしてきた。

 エルンは不幸の源だと思っていたがとんでもない、素晴らしい拾いものだ。

 レイドはエルンの認識をそう改めた。


「エルン」

『はい、何でしょうか?』

「俺の体が何をされているのか、俺が飲まされた毒の解毒剤もしくは解毒方法、チャップの弱み、これらの事について調べておいてくれないか?」

『了解、最善を尽くします』

「ハッチを開けてくれ」

『了解・・・ハッチ開きました』

「くれぐれも頼んだぞ、ばれないでくれよ」

『お任せ下さい』

 レイドはエルンの元を後にして自室へと戻っていった。


















 

 −ヴァリム国内某所 反省房−


 窓も明かりも何もない暗闇の黒一色の独房。壁により掛かり、壁の冷たさを感じながら服を脱がされ裸にされ、この暗い部屋に閉じこめられた一人の男がいる。

 ミラムーンからアルサレアへ輸送途中の次世代型人工知能エルンを搭載したJフェニックスの奪取に失敗したルロイ=レオミルだ。

 ルロイはフォルセアの命令を受け数年前からミラムーン国内に潜伏していた工作員だったが、奪取を失敗してエルンを手にしないままヴァリム国内に帰ってきためにこの反省房に入れられてしまったのだ。

 ここに監禁されてすでに九日がたっていたがずっと暗い部屋に閉じこめられていた彼には時間という概念は混乱し一時的に失われている。

 今の彼の頭の中には一つのことしかない。

(レイド・・・レイド=グットハント・・・あいつさえいなければ、完璧だったものを・・・おかげで俺の出世は全て台無しだ・・・・フォルセアのもとではこれ以上はもう無理だ・・・レイドめ・・・あいつさえいなけれ・・・・)

 レイドへの恨みである。

 フォルセアの部下で任務失敗しこの部屋に閉じこめられた人間は数知れない。

 ここに閉じこめられるという事はフォルセアにとってまだ価値のある存在だという事だ。
 そうでなければあっさり殺されている事だろう。



 重い鉄の扉が開き急に明るい光が差し込んでくる。

 ルロイはあまりのまぶしさにまともに目を開けていられなかったが、扉のところに一人の女性のシルエットが見えた。

「ルロイ=レオミル、起きなさい・・・・・・あなたは失敗をどう償ってくれるのかしら?」

 冷たい声、その声には鋭い刃がありそうに思える。

 声の持ち主はフォルセア=エヴァ神佐。

「し・・ん・・・・・さ」

 水もしばらく与えて貰っていなかったので声が出ない。

 それでも何とか喋ろうとする。

 返事をしなければ何をされるかわからない恐怖からだ。

「フォル・・セア・・神佐・・もう一度、もう・・一度、チャンスを・・・・下・・さい」

 ヨロヨロと神佐の足にすがりつくように近寄っていくルロイ。

 彼の手が神佐のブーツに触れた瞬間。


 無言で蹴られた。


「チャンスはあと一回・・・穴蔵からでなさい。もう一度だけチャンスをあげるわ」

 それだけ言い残すと神佐はその場を後にした。















 

 −アルサレア軍サーリットン戦線 後方基地−


 エルンに情報収集を頼んだ次の日。

 レイドはその日のPF操縦訓練を終えると直ぐにエルンのコックピットに向かった。

「エルン、頼んでおいた事調べておいてくれたか?」

『肯定、もちろんです』

「聞かせてくれ」

『言葉で言うよりも情報をレイド様の脳にイメージとして送る事を推奨します』

「そんなことできるのか?」

『肯定、可能です。レイド様が頭の中の言葉を私に伝えられるように私からも送る事が可能です。ただ、一度に大量の情報を送ると脳が混乱するおそれがあります』

「危険じゃないか・・・」

『肯定、確かに危険はありますが、今回送ります情報は混乱するほどの情報量ではありませんのでご安心下さい』

「じゃあ、やってくれ」

『了解、送ります』

 エルンがそう言った直後。

 レイドの頭の中に文字や映像が一斉に流れ込んできた。

 エルンは混乱しないと言ったがレイドは十分混乱していた。

 頭の中の出来事なのだろうが目の前に色々な字が飛んでいるのが見え吐き気までしてきた。

「おい・・・エルン・・何が混乱しないだ・・・頭の中を滅茶苦茶に情報が飛び交っているぞ」

『1分もすれば慣れます。我慢して下さい』

 エルンの言う通りしばらくするとその症状は収まってきて、エルンに集めさせた情報が自分の記憶の中にあるのが感じられた。

「ふぅ〜なんとかなった・・・」

 レイドは汗をいっぱいかいている事に気が付いた。

『どうですか?』

「ああ、良くわかったよ。あまり気分が良いものではないが・・・便利だな」

『次はどうしますか?』

「チャンスを待・・・・つ・」

『了解』

 レイドはその場で脳に過剰な負荷が掛かったせいで意識を失い眠りについた。






 

 それから数日後、PF操縦訓練はいよいよ最終日を迎えた。

 いつものPF格納庫。

 相変わらず10人で訓練は進んでいた。

「よし、今日はいよいよ最後だ。そこで、お前ら10人まとめて俺が相手にしてやる」

 ムラキの言葉にその場にいた全員が顔を見合わせた。

 いくらエースパイロットでも10人も同時に相手に出来るのだろうか?

 少々、PFの操縦になれてきただけにそれが信じられなかった。

 だが、これは願ってもない機会だ。

 エースパイロットと戦えるのだから、こんな機会は早々恵まれるものではない。

「全員機体に搭乗しろ」

 レイドの周りの見習いパイロット達は喜び勇んでPFに搭乗する。

 ムラキも搭乗する。

 彼の機体を先頭にアヒルの親子のようにワラワラと移動を開始。

 演習場に到着する。

『いいか、ルールはいつも通り三発命中したら行動不能になる。では、はじめるぞ』

 ムラキ機に向かってレイドを含めた見習いパイロット全員が一斉に攻撃を仕掛ける。

 ここの演習場は岩場の為、障害物が多い。

 ムラキは機体を後方にジャンプさせるとPFが一機隠れられるぐらいの岩の陰に隠れた。

 すぐに、三機が追撃を掛ける。

 ムラキの軌道を追う様に一機、岩の左右から回り込む様に二機。

 ムラキは右から回り込んできた機体が他に比べてやや早いと判断しその機体に向かってブーストを使って加速。

 岩の陰から急に出てきたムラキの機体に驚きながらもスマートガンを発砲するがムラキは機体を旋回させながら背後に回り込み二射。

 他の二機がムラキの機体の動きを目で追いスマートガン発射。

 彼らがムラキの機体が味方機の背後に回り込んだ事に気が付いたのは発砲した後であった。


 誤射を利用してムラキ一機目撃破。


 さらにムラキは活動停止した機体の背後からジャンプして飛び出すと二機のうち一機の着
地の隙をつき三連射。


 ムラキ二機目撃墜。


 その光景に見とれていた六機のPFが今度はムラキの着地を狙おうと一斉に動き出した。

(あれが、エースパイロットの動きか・・・)

 と感心しながらレイドもそれにあやかって近づいて行く攻撃の機会を窺う。

 六機のうち一機は機体を高く上昇させ上空からムラキを狙おうとする。

 ムラキの機体が着地した。

 一斉に七機のPFから銃弾が放たれる。

 だがムラキは着地の瞬間にブーストを地面に向かって噴射し着地の衝撃を和らげレッグパーツへの負担を軽くし機体の硬直、つまり隙を少なくしていた。

 そのおかげで着地と同時にブーストで横に逃げスマートガンの弾を回避できた。

 ムラキは回避しながらも攻撃を忘れないスマートガンを六機でかたまっている集団に適当に撃ち込む。

 その後もムラキは見習いパイロット達に格の違いを見せつけ続け、けっきょく十機のPFは瞬く間に撃墜されてしまい。

 レイド達は最後まで一発もムラキに当てる事が出来なかった。


『これが実戦だったら、お前らは全員死亡か、良くても捕虜だな。これがベテランと新米の差だ。
 戦場ではベテランも新米も入り交じっている。お前ら新米が生き残るには戦場で出会った敵の腕前を瞬時に判断する必要がある。そして、お前らがベテランの腕前になるには生き残らなければならない。
 しかし、戦場では悲しい事だが新米から真っ先に死んでいく・・・それが戦場の掟だ・・・・・・お前らみたいな新米は手柄を焦りすぎる事がたまにある。そう言うやつ大概は生き残れない。
 手柄は焦るな! 生きていればそんなもの後から付いてくる。それにやけになって命を捨てるやつもいるが、そんな事も絶対にするな!
 お前達一人一人が生き残らなければ戦いに勝っても何の意味がない』


『でも・・・ムラキさん、PFって生還率高いですよね?』

 誰かがそう言った。

 確かにPFは一般的に生還率が高いと言われている・・・一般的にはその言葉が重要である。

『たしかに、従来の兵器に比べて生還率は高くなっている。だがな、戦場はそんなに甘いもんではない。PFの一番効率の良い倒し方を知っているか?』

『・・・わかりません』

『コックピットを狙う事だ。それが一番早いし楽だ。
 普通の感覚では人を殺す事を恐れて狙えないかも知れないが、感覚を狂わせ人を残忍にするのが戦場だ。戦場ではより多くの命を奪ったものが英雄になれる。合法的に殺人が認められている場所なんだ。これがどういう事かわかるな?
 敵の多くはコックピットを真っ先に狙ってくるという事だ。コックピットを狙わずに敵を倒せるのはある程度戦闘に慣れた兵士だけだ。逆にベテランはコックピットを故意に狙ってくる。お前らも多分、最初はためらうだろうな・・・・
 話が長くなったな・・・・とにかくだ、俺から言えるのは生き残れ! 考えるのは後で良い・・・さて、基地に帰還しようか』

 ムラキの長々とした話を聞き終えレイド達は基地に帰還した。

 ムラキはこの後も残り二組合計二十人と一対十で戦ったとレイドは聞きムラキの実力の程に驚かされた。










 

 その日の夜。

 レイドは廊下でたまたまミオと出会った。

「あ、ミオさん」

「こんばんは、レイドさん」

「今日でPF操縦訓練終わりですね・・・・もう少し、したらいよいよ実戦配備。緊張しちゃいますね?」

 ミオの話す顔を見てレイドは思った。

(やっぱ、ミオさん可愛い!!)

「どうしました? 私の顔になんか付いてます?」

「あああ、いや、なにも付いてませんよ」

「ふふ、変な人」

「ははは、そう言えばミオさん達もムラキさんと戦ったんでしょ」

「はい、強かったですよ。私達、手も足も出ませんでした。あれがエースパイロットの実力なんですね」

「ムラキさん、手加減してくれれば良かったのに」

「それじゃあ、訓練になりませんよ」

「ああ、そうですね」

「それじゃあ、私、寝ますから」

「お休みなさい」

 ミオがその場を立ち去って歩いて行く。

 レイドはその後ろ姿に見とれていた。

(そろそろ、ミオさんともお別れか・・・エルンの情報だと近いうちにチャップから命令が来るだろうからな・・・その時が逃げ出すチャンスだ・・・・!・・・そうだ)

「ミオさ〜ん! ちょっと待って下さい」

 レイドはミオの後を直ぐに追い掛けた。











 


 −後書き−

 なんとも、無駄に長い今回の話。反省点目白押しな様な気がしてなりません(汗)
 思いのほか、ムラキが喋るし、LIPSは暴走するし、ルロイも不幸な人になっているし、恋愛ものは書くの苦手だし・・・・ああああ、問題山積みだぁぁぁ!!

 


 管理人より

 バーニィさんより第3話をご投稿いただきました!

 エルン、結構凄いな(笑) でもそのおかげでレイドにも光明が(爆)

 これからどうなっていくのか、ますます楽しみです!!
 


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