名も無き兵士達の血の記憶〜アルサレア戦役〜






作:バーニィ



 ダン編外伝 〜記憶の断片〜



 疲れた・・・喧嘩でこんなに疲れたのは初めてだな、負けたのも初めてか・・完敗だったな。

 俺は立ち上がり重い身体を引きずりながら歩き出す。

 何処に行こうってわけでもなく・・・ただ、少し休みたかったから静かな所に行きたいだけだ。

 口の中に違和感がある・・・・何か入っている。

 口からそれをはき出すと、赤いものに混じって白い固まりが出てきた・・・歯だ。


 歯並び悪くなったらどうしてくれるんだ。

 グリュウの野郎・・手加減ってものを知らねえのか?





 いや、手加減はしてたか・・・あいつが本気だったら俺はとっくに死んでいるな。


 刀・・・・見えなかったな、あいつが刀を抜いたあと・・・俺は全身に電気が走ったみたいに痺れを感じた。痺れって表現は間違っているかも知れねえけど、今はそれしか浮かばねえ。

 気が付いたら目の前に刀の刃があった・・・冷たい感じのする刃だったな・・


 今まで随分と無茶してきたが、あれが初めてだな“死”って言葉が浮かんだのはな、あの野郎何考えて戦ってやがるんだろな・・・想像もつかねえ。

 無茶か・・・・・いつからだったかな、そんな事をする様になったのは?





 ああ、そうか・・・あの時からだ。

 アイリーンが死んだと聞かされた時から・・・・





 お、ちょうどいい木があるじゃねぇか・・・少し休むか。


 俺は木により掛かりながら地面に座り込むと目をつぶった。






 アイリーン・ダグラス・・・俺がかつて惚れた女だ。

 今でもそうかな?

 だが、もうこの世にはいない。死体を見たわけじゃないから本当のところはわからないが・・・たぶん、いない。

 アイリーンと出会った日・・・あの日はどんな日だったかな・・・











 

 あの日はちょうど転属の命令を受けた日だった・・・・


「ダン軍曹! サブロウ曹長!」


 俺が同僚のサブロウ・ナガレやその他大勢と呑気とポーカーを楽しんでいると、後ろからいつもの不機嫌な隊長の声が聞こえてきた。


「「はい、隊長殿。なんでありましょうか!」」


 あの隊長と来たら、直ぐに返事をしないと説教が始まるからな・・・示し合わせたみたいにサブロウと同時に返事をした。

 俺の足元にトランプのカードが落ちる・・・イカサマしていたからな、あいつら一瞬目を丸くして驚いてやがったな。


「両名に転属命令が届いた。詳しい内容はこれを読んでおけ、それとお前達は三分後にでる輸送機で出発の予定だ、乗り遅れるな! 以上だ!!」

「「了解致しました!!」」


 言いたい事をいうと隊長殿は去っていった。

 あの隊長は意地悪な奴だから、何時も連絡事項はギリギリまで教えやがらねぇ。

 身の危険を感じた俺がこっそりと逃げようとするとサブロウの奴が呼び止めた。


「さて、ダン君?」

「何かな、サブロウ君」

「これはどういうことかな・・・・」


 サブロウが足元のトランプを指さす。

 俺が周り人間を見回すと皆一様に目が怖い・・・そりゃそうだかなり金を巻き上げたからな。


「サブロウ・・・だからイカサマは不味いと言ったろ、みんな、すまん! 俺はサブロウに脅されていたんだ・・・と言うわけでサブロウ後は頼む!!」


 良くもまああんな良いわけが思いついたもんだ・・・逃げれりゃそれで良かったからな。


「おいちょっと待てダン! あれ・・・みんな目が怖いよ・・・どうしたのかな? あれはダンが勝手にやった事なんだ俺は何もしてないんだぞ! まて、みんな・・話せば分かる・・・暴力反対!」


 背中の方からサブロウの悲鳴が聞こえてきた。

 サブロウ・・・お前にはあの時は感謝したよ・・・身代わりになってくれたからな、サブロウとは昔から一緒だったな・・・・


 荷造りを済ませ輸送機へと向かうと、たしかちょうどエンジンをかけている所だったな、俺が輸送機に乗り込むと動きだし滑走路へのアプローチを始めた。

 滑走路に入る前に輸送機は管制塔の指示を待ち待機する。

 何か声が聞こえた様な気がした俺は小窓から外を覗いてみるとサブロウが手を振りながら叫んでいるのが見えた。

 輸送機のパイロットは慌てた様だが管制塔の誰かが載せてやれと言ったらしくサブロウはなんとか搭乗できた・・・まったく運が良い奴だよ、あいつは・・・


「ダ・・・ダ・・はぁはぁ・・・ダン、お・・お前・・なんて事をしやがるんだ・・・・・」

「サブロウ・・・大変だったな」

「ま・・まあ、いい・・・・俺は疲れた」

「そう、そう。よく休んだ方が良いぞ」


 サブロウは全身に汗をかいて文句を言う気力も残ってなかった。俺がやった事とは言え少し悪い気はしたな・・・・












 

 数時間後、輸送機は無事にどこかの基地に着いた。


「ダン、着いたみたいだぞ」

「ああ、もう着いたのか・・・思ったより早かったな」


 俺とサブロウは輸送物資を運び出している輸送機の乗組員の脇を通り過ぎて外に出てみる。

 輸送機から出るとそこは・・・・・・・砂漠だった。


「ちょっとまて! なんで砂漠なんだ? もしやここは・・・・1日当たりの平均死亡率が100人を超えるという最激戦区サーリットン戦線じゃないのか!!」


 サブロウが頭を抱え空に向かって叫び出す。こっちの耳が痛くなるぐらいの叫び声だったな。ちなみに、一日の平均死亡率100人ってのは誇張ではない・・・このまま行けば人口が激減だな。


「サブロウ・・・俺たちの運も尽きた様だな」

「ダン・・・しゃれになってないぞ。なんで俺等がこんな所に配属されなければならんのだ」

「上の考える事は良くわからないからな・・・・」


 サーリットン戦線に送られるって事は死んでこいって言っている様なもんだからな・・・




 輸送機の直ぐ脇で話し込んでいると輸送機の乗組員が声を掛けてきた。


「ちょっと、そこの人達手伝ってくれないかな?」

「悪いが俺たちはこれから着任の挨拶に行かないと・・・」

「は? 何言ってるの、あんたらはここで降ろす荷物じゃないよ。ここは輸送物資と人を拾うために寄っただけだ」

「へ? ここじゃないの・・・・」


 サブロウが間の抜けた顔をした。そう、俺たちの勝手な勘違いだったんだよな。


「あんたら、ちゃんと自分たちの行く場所くらい把握してないと駄目だよ。あんた等を降ろすのはもっと北の方だ」

「良かったなダン! 死なずにすみそうだぞ」

「ああ、そうだな」

「ほらほら、これ持ってよ。乗り遅れたんだからこれくらいは手伝ってもらわないとね」


 サブロウは渡された荷物を持つ。


「うお・・・お、重ひ・・・ダン、手伝ってくれ」

「なんで俺が手伝うんだよ・・・」

「誰のせいで俺が乗り遅れたと思ってるんだ?」

「・・・わかった、わかった」

 考えてみたらあれは俺を手伝わせるための芝居だったんだろうな・・・まったく姑息な奴だよ。



 しばらく俺が退屈な荷物運びをしていると後ろから誰か声を掛けてきた。

「ちょっと、お伺いしますけどこの輸送機は2111便ですよね」

「さあな・・・他のヤツに聞いてくれ」

 声から察するに女みたいだったが、面倒だから投げやりに俺は答えた。

「・・・あなたね。そんな態度はないんじゃないの!」

「うるせえな・・俺は忙しいんだよ!」


 ガスッ!


 急に後頭部に重い衝撃が・・・あれは効いたぜ

「何しやがんだ!!」

「か弱いレディーにそんな態度をするからよ!!」

「こんなもん投げつけるヤツの何処がか弱いレディーだ!!」

 振り返ってみるとビックリだ。立っていたのがルキアだからな・・・その時は直ぐに思い出せなかったけどな。

「あれ・・・・あなた?」

「何だよ」

「・・・・ダンじゃないの!」

 俺の名前を言われて少し考えるとやっと思い出せた。

「ルキア?」

「あなたパイロット止めて輸送機の乗組員になったの?」

「何を言っていやがんだ。俺は手伝わされているだけだ」

「そうなの、大変ね。ついでに私の荷物も運んでくれない?」

「はい、はい。サブロウがお運び致しますよ〜お代は熱〜いキスでけっこうですからね〜」


 ボスッ!


 どこからともなく現れたサブロウがルキアに殴られた。

 あれは良い一撃だったな・・・


「うぅ〜もろレバーに入った・・・・」

「サブロウ・・・お前はなんなんだ」

「ダンの知り合い?」

「否定した所だが・・・・知り合いだ」

「友人関係は選んだ方が良いわよ」

「・・・そうだな(しかし、ルキア・・・お前はそんないいパンチを何処で覚えた?)

「ダン、ほら! 荷物運んでよ」


(・・・逆らわない方が良さそうだな・・・何をされるかわからん)


「ねえ、ダン」

「今、運ぶよ」

「よろしくね〜♪」


 考えてみたらあの時からルキアとサブロウとはずっと同じ隊だな・・・・そうか、あの時から一緒だったのか・・・






 ・・・気が付かなかったな・・・






 

 積み込み作業も終わり輸送機は今度こそ目的へ向けて飛び立った。

「うぅ〜ん、う――――ん」

 サブロウの奴はルキアの一撃で未だに苦しんでいた・・・たぶん芝居だけどな。

「えっと・・・ナガレさん、大丈夫?」

 サブロウの事を知らないルキアはやりすぎたかと心配して声を掛けた。


「ル・・・ルキアさん、サブロウと呼んで下さい・・・」

「え? ええ、サブロウさん大丈夫?」

「わ・・・私はもう駄目です。せ・・・せめて最後に・・・」

「何?」

「・・あ・・あ・・・・あ・・」

「あ?」

「・・・・貴方の胸の中で最後の時を・・・ぐふぉ」

「・・・最低」


 懲りないサブロウは再びダウンした。あの二人は漫才やらしたら面白いかもな・・・


「お・・俺はここで朽ち果てるのか・・・」

「一人でやってなさい!!」

「・・・・ぐすん」

「良かったなルキア、お前はサブロウに気に入られたみたいだな」


 笑いながら俺がそう言うとルキアは不満そうな顔をする。目が怖い・・・


「ちっとも、良くないわよ! こんなのが部下だと思うと先が思いやられるわ」

「部下?」

「そうよ。貴方も私の部下・・・・ちゃんと聞いてないの?」


 そう言われて渡されたまま見ないでいた書類に目を通してみると。


「げ・・・・ルキア、お前は少尉なのか?」

「そうよ」

「なんで俺より後から入ったのに階級が高いんだ・・なんか気にくわないな」

「ま、才能の差ね」

「く、悔しい。なんか猛烈に悔しいぞ」


 あいつの階級の方が高いうえに俺とサブロウの直属の上官だったからな・・・今でもそうだが、あの時は何となく悔しかった。













 

 1時間後、輸送機は未だに飛んでいた。

 ダンは元気になったサブロウと二人でブラックジャックをして時間を潰していて、ルキアは読書中だったかな。


「ダン・・・またイカサマしてないか?」

「お前相手にイカサマなんかする必要ない」

「そう言えば、なんか寒くなって来たと思わないか?」

「そうだな、少し冷えてきたな・・・」


 俺がルキアに目をやるとなにやら荷物袋から暖かそうな防寒具を出していた。


「ルキア、そんなもんだしてどうするんだ?」

「・・・何言ってるの、私達の配属される場所は辺り一面の銀世界なのよ。これくらいなくちゃ凍えるわよ」

「だ、そうだぞ、サブロウ・・・持ってきたか?」

「ない・・・ダンは?」

「俺もない・・・」


 俺とサブロウはそろって羨ましそうな目でルキアの方を見る。


「・・・・二人とも、馬鹿?」

『着陸態勢に入りますので席について下さい』


 俺は寒さをどうしのぐか悩みながら着陸を待った・・・どうしようもないんだけどな、少し揺れたが輸送機は無事に着地した。

 俺が窓から外を覗いてみるといかにも寒そうな光景が目に入ってきた。辺り一面真っ白、遠くも近くも雪や氷に覆われている物しか見えない。しかも、日が沈みかけているので外はかなり寒そうだ。

 サブロウも同じように外を眺めておりその顔は少し青ざめていた。あたりまえだよな、寒そうな外へ防寒具無しで出なければならないのだから・・・・

 俺とサブロウは顔を見合わせると苦笑いをしてため息をつく。


「二人とも迎えが来てるのよ。早く来なさいよ」

 ルキアは一人で表へ向かう。あいつは防寒着を着ていたから良いよな・・・・

 俺とサブロウが意を決して遅れて表に出る。表に出た途端あまりの寒さに身体を震わせたよ・・・そりゃそうだよな・・・


「ダ・・・・ダダダダダ、ダン。俺は・・死ぬぬぬかももももししししれれん」

「・・・・同感だ」


 ルキアと迎えの人間は暖かそうな防寒着を着ていた・・・その迎えの人間ってのが・・・


「アイリーンさん、この震えている二人がダン・ロンシュタット軍曹とサブロウ・ナガレ曹長です」

「・・・・お二人とも薄着で、寒さにお強いんですね」


 アイリーンってわけだ・・・・初めてあって第一声がこれだもんな、今思い出しても変わった奴だった。


「ダン、サブロウ、この方が技術士官のアイリーン・ダグラス中尉よ」

「「およけきょ、おねねいばぶ」」

「?」


 俺とサブロウは震えてまともに喋れなかった。

 何故か微妙な間が空いたな・・・・あの間を空けるのはアイリーンの特技だった。








 

「あの・・・移動しません?」

 ルキアがそう言わなかったら俺とサブロウは凍え死んでいたかもな・・・・マジでな。

 

 基地に着き毛布にくるまるとようやく俺とサブロウは震えが止まった。

「お二人とも、防寒具を忘れただけだったんですね」

 アイリーンは俺たちが寒さに強いと本気で思っていたらしい・・・後で聞いたがこれは本当だ。彼女は少々他の人間の常識が通用しない所があった。

「アイリーンさん、あんな寒い中薄着でいられるのは人間じゃないですよ」

 サブロウの奴は直ぐにいつもの調子でアイリーンに話しかけていた。

「それもそうですね。でも、あの寒さの中、防寒着無しで立っている人なんてあなた達が初めてだったもので・・・そういう方もいるのかな? って思ってしまいました」

「アイリーンさんは冗談が上手いな〜そんな人がいるわけがないじゃないですか」

「そうでしょうか?」

「・・・・本気ですか?」

「はい」

 と、明るい笑顔で答えるアイリーン。サブロウが一歩引く・・・まあ、俺も最初は引いたよ。


「ところで、ダグラス中尉。今日はもう休みたいのですが・・・私達の部屋はどこですか?」

「あ・・・すみませんルキアさん。案内をするのを忘れていました」

「・・・・」

 アイリーンはそう言うやつだった・・・ぼけていると言うか何と言うか、とにかく変わっていた。













 

 翌朝、俺は道に迷った・・・・基地で迷うというのも間抜けな話だがな・・


「ここは何処だ?」


 ぼやきながら歩いてはいるが現在位置すらわからない状態。案内板も見当たらず、ただ闇雲に歩く事しかできなかった。

 行き止まり、正面にはドアがあり、関係者以外立ち入り禁止、細菌培養室と書いてある


「はぁ〜また行き止まりかよ・・・どうせ開かねえし、仕方がない。引き返すか・・・」


 俺が引き返そうと後ろを向き歩き出すと、後ろからドアが開く音がし誰かが声を掛けてきた。


「ダン軍曹、こんな所で何をなさっているのですか?」

「あ・・・ダグラス中尉。おはようございます」


 振り返るとアイリーンがいた。一応、階級上は向こうが上である。俺は当たり障りがない様になるべく丁寧に挨拶した。まだあんまり親しくなかったしな・・・・


「おはようございます。アイリーンで良いですよ、ダンさん」

「では、アイリーン中尉、おはようございます」

「こんな所で何されているんですか?」

「あ・・・まあ、散歩です」


 道に迷ったとは恥ずかしくて言えなかった。


「散歩ですか、今朝は散歩には良い日和ですからね」


(・・・室内なのに何故、散歩日和?)


 微妙な間が空き・・・なぜか見つめ合ってしまう・・・あれには参ったね。








 

 奇妙な緊張感に呑まれ俺は何を言って良いのかわからずにいた。

「どうしましたか、私の顔に何か付いていますか?」

 俺はそう言われてアイリーンの顔をじっと見ていたのに気が付き、何だか急に恥ずかしくなって来た。

「あ、ええっと、何にも付いてないな・・です。はい」

「ふふ、ダンさんって可笑しな人ですね」


 また間が空く・・・










 ・・・最初はあの間に戸惑ったな。









「「あの」」







 二人が同時に声を出した。

 再び間が空く・・・






 

「何ですかダンさん?」

「実は・・・・散歩じゃなくて道に迷っていまして・・・」

「あら、迷子だったんですか」

(ま・・・・迷子・・・)

「ここの基地は入り組んでいますからね。私はここに来て半年になりますけど・・・たまに迷子になってしまいますもの・・・」

(半年たっても・・・道に迷う・・・・・・そんなに複雑なのか?)

「では、私が案内しますね」

「ええ、よろしく頼みます」


 俺は頼りないアイリーンの後を付いて行く・・・この頃から何となくアイリーンの事を心配せずにいられなかった。






 

 歩き出して直ぐだった。

「そう言えば、ダンさ・・・きゃっ!」

「危ない!」

 何もない所で何故か何かにつまずきアイリーンが転びそうになる。俺はとっさに動き倒れそうになったアイリーンのか細い身体をしっかりと抱き留めた・・・アイリーンは何もない所で良く転んでいたからな。

「大丈夫か?」

「・・・・」

 キョトンとした顔をしたアイリーンから返事はない。大きな瞳を瞬きさせ俺の顔を見ている。吸い込まれそうな深い青色をした目だ。









 ・・・あの瞳が好きだった。







 

「大丈夫なのか?」

「あ・・・だ、大丈夫です。ありがとうございます」

「無事なら良いんだ・・・」

 頬を赤らめる恥ずかしそうにダンを見上げるアイリーン。

 アイリーンの顔をよく見てみると目の下にくまが出来ている・・・けっこう無理をしていたみたいだからな。








 ・・・そんな所も好きだった。








 

(何もない所でつまずくほど疲れてるのかな?)

「あの・・・ダンさん、立っても良いですか?」

「あ、悪い悪い」

 俺はアイリーンの手を取り立たせる。白い綺麗な手だったな・・・









 ・・・透きとおる様に白いあの手も好きだった。








 

「ありがとうございます。私ったらドジなんですよ」

 アイリーンは照れ隠しに微笑んだ。









 ・・・この顔も好きだったな。








 

「なあ、疲れてるんじゃないのか?」

「いえ、大丈夫ですよ。徹夜は慣れっこですしね」

「いや、そうじゃなくてさ、足元がおぼつかないぐらいフラフラしてたんじゃ危ないじゃないか」

「それもそうですね・・・・・・・・・・・・気が付きませんでした」

「気が付かないって、そんなもんか?」

「そんなもんです。ダンさんは優しいんですね」

「・・・そんな事、言われた事ないな」


 アイリーンは時々話が飛んでいたからな・・・良く話がかみ合わない事があった。








 ・・・もう、あいつとずれた会話も出来ないのか。








 

「でも、嬉しいです。ダンさんやっと普通に喋ってくれましたね」

「え・・・ああ、その、一応上官だからな・・じゃなくて、ですからね」

「うふふ、階級なんか気にしないで良いんですよ。喋りやすい様に話して下さいね」

「あ、ああ、わかった・・・」

 アイリーンは楽しそうに笑っていた。








 ・・・・もう、見られないんだな、永遠に。









 

 俺がアイリーンの何を気に入ったのか・・・アイリーンが俺の何を気に入ったのかわからないが・・・何時の間にかお互いに一緒にいる時間が増えていた。

 まあ、ようするに付き合う様になったわけだ・・・・


 書類の山を倒したり、コーヒーを頭から被ったりと色々とアイリーンは楽しませてくれたもんだ・・・・今思えば懐かしい事ばかりか・・・











 

 アイリーンが死んだ時・・・正確に言えば行方不明になった時の事だ。

 あの日、技術士官であるアイリーンは出張で本国に出かけていた。


 その帰り・・・アルサレアの連中に輸送機を襲われたらしい・・・・・何とか逃げ延びこのエリアの近くまで来た時、エンジンが爆発して墜落したそうだ。


 敵の弾が被弾していたせいだそうだが・・・そんな事はどうでも良い。




 その日は猛吹雪、アイリーン達は吹雪の中で基地に連絡する事も出来ずに遭難してしまったわけだ。

 救出の手段はない・・・輸送機ではこの吹雪の中、生きていく設備はない・・・つまり、凍死を待つだけ・・・・天候回復の見込みはほとんどと言っていいほど無かったからな。




 寒冷地用のPFで俺は直ぐに救出に向かう事を進言したが・・・・基地司令にあっさり却下された。

 理由は二重遭難を避けるため・・・・

 寒冷地用のPFは未だに開発中でせいぜい活動限界は一分が限界だった・・・たったそれだけの時間で探せるわけ無いのだから当然の判断だ。


 が、俺は納得できなかった。基地司令を殴ると・・・そのままPF格納庫へ。


 後は基地を飛び出し遭難だ・・・笑い話のもならないな・・・・・





 次の日、幸か不幸か俺は助けられた・・・アイリーンの乗っていた輸送機の墜落現場も直ぐに見つかったが・・・死体はなかったそうだ。


 あるのは獣の足跡のみ・・・そこら辺の動物が死体は持っていったらしい・・・・・・





 いたってシンプルだがそれが彼女との別れだ。

 虚しいもんさ・・・人の死なんかは特にな・・・

 死体すら見ていないので俺は死んだとは思えなかった・・・いや、思いたくなかった。


 そのせいか・・・“悲しい”という事はなかった・・・ただその代わりに“苛立ち”があった。

 俺はその苛立ちを敵に・・・あるいは味方に・・いや、味方も敵に見えていたんだな。



 今思えばただの八つ当たりか・・・・・・その八つ当たりで何人のアルサレア兵の命を奪った? 100人ぐらいか? 


 今まで俺に殺された奴が聞いたら何を言われるかな・・・



「ダン、お前は何のために戦っているのだ?」


 これが俺の戦ってきた理由だよ、グリュウ・・・ただの憂さ晴らし・・・・

 良くこれまで生きて来られたもんだな。


 これからもその為に戦っていくのか?


 ・・・・・・帰らぬアイリーンを待つ苛立ちをまぎらわす為に・・・・・・アイリーン・・・俺はお前から遠くに来すぎたかな?

 お前を忘れるために・・・・手を血で汚してきた・・だが、どうだ? 何も変わりはしない・・忘れられやしない・・・・・お前は俺の中で生き続けている。


 ただ疲れただけだ・・・・・ただ・・死者が増えるだけだ・・・俺の心に穴が開いただけだ・・・・・・








 

 誰かが近づいてくる足音がした。俺がうっすらと目を開けるとそこにはルキアが立っていた。


「ダン・・・・大丈夫?」


 ・・・・・・そうだ・・俺がPFで飛び出した翌朝見つけられた時もルキアは同じ事を言っていたな・・・・・・・・・


「ああ、大丈夫だよ。少し疲れただけさ・・・」

「そう、なら良いけど・・・」


 そんな顔するなよ・・・アイリーンも良くそんな不安そうな顔してた気がするな・・・・・・周りの奴らにそんな顔させるのが俺の特技ってか?



 ・・・・・・ルキアのあんな顔・・・・アイリーンが消えてから何時も見ていた気がするな・・・・



 戦う理由・・・・恩返しってのもありなのかな?・・アイリーンどう思う?


「ルキア・・・」

「何?」


 直ぐに返事が返ってきた。


 近くに人がいるってのは良いもんだな・・・



「次の作戦まで・・・少し寝るよ」

「わかったわ・・・・・お休み、ダン」



 お休み・・・か








 


−設定−

・アイリーン・ダグラス 年齢:20歳 性別:女 
 PF技術士官。基地では寒冷地用のPFの研究をしていた。現在は事故で行方不明になっている。特技は微妙な間を空ける事と何もない所で転ぶ事。性格はのほほんとしている。
 髪の毛の色は紫色、目は青。 




 −バーニィの後書き−

 ダン編の外伝的な話です。これはダン個人の記憶ですからね・・・少しアルサレア戦役から外れてますが、私の文章力の不足を補うためには必要のようです。
 これだけでももしかしたら表現が足りないかも知れませんね・・・・それが少し不安です。文章って本当に難しいです・・・・日々鍛錬あるのみ。
 どうか誤字がありません様に・・・(祈願)

 桃音さんのおかげでこの話が出来ました。この場を借りて御礼を申し上げます。ありがとございました。
 頂いたご意見とはかけ離れてしまい、恋愛物の予定がまったく別のものに変化してしまいました。私が書く「純」恋愛物は異常に長くなりそうですので別の機会にチャレンジ致します。文章の修行も不足していますしね。


 


 管理人より

 バーニィさんよりダン編の外伝をご投稿頂きました!

 憂さ晴らしか………成る程(苦笑)

 いや、戦争なんだからそれが普通なのかな?(爆)
 


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